第10話 もう末期症状かも知れない
「いやぁ、花見は楽しいのぅ」
わしは右手に持ったコップから泡があふれんばかりの飲み物を飲み干したところである。
左手にはぷてち。
しゃくしゃくという音と共に、それは量を減らしていく魔性のお菓子である。
一見、酒にぷてちは合わんだろうと思うだろうが、そもそもからして飲んでいるのは酒ではなくコーラである。
「なぁ、ニーニャ」
瑛三郎は、いかにも不満そうにわしを見ながら言う。
麟は文句も言わずに、ほれ、笑っておるではないか。
「なんじゃ、花見という楽しいひと時に無粋な奴じゃの」
ぷてちを頬張りながら、わしは言う。
「ああ、確かに普通の花見という事であれば俺も何も言わん」
「だが、ここは間違いなく室内だ」
「じゃが、桜の花もあるではないか。何が不満じゃというんじゃ」
「それは…ゲーム画面の桜の花の事を言っているのか?」
瑛三郎は、そう言いながら自身のゲーム画面に映っている桜の花を指差す。
そう、今わしらは4人でテーブルの上に置かれたゲーム画面の桜の花を見ながら花見を行っている最中である。
4人のうちの一人であるリョクは、わしの肩の上で両手に持ったぷてちを食べている。
「ゲーム画面であろうと、桜は桜じゃろ」
「それに、MMORPGではよくある風景ではないか」
「こうすることで遠くにいる仲間が集いあい、和気藹々と花見が出来る」
「良い時代に生まれたと喜ぶところであろう?」
ドヤ顔でぷてちを食いながら言った。
「あぁ、俺もそれは否定しない」
「故郷に居た頃は、俺もそれをしたことがあるからな」
「では、何が不満じゃと言うんじゃ」
「それはな…」
「それは?」
「城の中庭に桜があるんだよ!綺麗に咲いてるんだよ!なんで、そこでしねーんだよっ!」
瑛三郎は、左手の掌でテーブルを押さえ中腰の状態で中庭の方角を右手で指差す。
麟は直ぐに瑛三郎をなだめ、瑛三郎は不満ながらも麟に従い腕を組みながら席に座り直した。
「瑛三郎、よく聞くがよい」
「これには、深ーい事情があるんじゃ」
「なんだと!?それは一体…」
「それはな…」
「そんな、現実の生活が充実してるような事をすれば【タイトル詐欺】になるではないかっ!」
麟は目を閉じ乾いた笑いをしており、瑛三郎は目こそ同じく閉じているが口はへの字に閉じていた。
「いや、いきなりそんな【メタい】発言をされても、読んでいる方も今頃困惑してるだろ」
「瑛兄さんも言ってるよぉ…」
「というわけじゃ」
「話を投げやがった…」
「じゃがの、これはこれで楽しいじゃろ?」
「ですよねぇ、ニーニャ様」
今まで無言を貫いていたリョクが、楽しそうにぷてちを頬張りながら言う。
「じゃが…」
「よくよく考えたら、城の中庭は範囲内かも知れんの」
「というわけで晩飯は、中庭で焼肉パーティを決行するのじゃ!」
こうして、わし等は夜空を見ながら焼肉パーティを楽しんだのだった。
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