第49話 異世界転生異聞録 ※序文参照

※今回のお話の主人公はニーニャの母ネネカで彼女とニーニャの父蒼治良のお話ですが、本文に登場するキャラクターは彼女らであって彼女らではありません。

お前は何を言ってるんだ?


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私の名前は長山瑚雪ながやまこゆき

またの名をニェボルニェカ・D・イルカナトワという、ごくごく普通のぴっちぴちの11歳独身のホムンクルスの小学生。

頭のおかしいマッドサイエンティストで『極東の緋熊』の異名を持つ父の長山熊藏ながやまくまぞうと、同じく頭のネジがちょっとどころでなくぶっ飛んでいる『シベリアの銀狼』の異名を持つ母のルーヴシュカ・I・イルカナトワの二人の精子・卵子と呼ばれる遺伝子のうつわ同士をキッスさせて、なんか良い感じに遺伝子操作も行って生み出された、頭脳だけは完璧超人の存在。

それが私。


そんな事はともかく、いつものようにランドセルを背負って面倒な学校へと通うべく道を歩いていた時、彼と運命の出会いを果たしてしまう。


「カッコイイ………」


それは1か月前の登校中での出来事。

真夏・・だというのに上半身は『黒のマフラー』を首に巻き『黒のTシャツ』を着て、下半身は『黒のジーパン』と『黒のスニーカー』‥‥痛々しいまで全身を黒でまとった中年の男だった。

滝のように流れる汗が、太陽の光でまばゆい程輝いている。

そんな何か良く分からないポーズを決めている彼を、周囲を歩く人々は不審そうな目で眺めながら絶対に関わるまいと通り過ぎ、その周囲の人々の視線の先には電信柱の影で見守っていた私も漏れなく含まれていた。


「学校に行っている場合じゃない」


私は3回コケながらも、急いで家へと舞い戻った。


「おぉ、最愛の娘よ。学校はどうした?」

「というか、膝をすりむいてるじゃないか」

「パッパが絆創膏を貼ってあげよう」


そんな父の言葉を見事にスルーして、階段を上り自分の部屋へと入るとスパコンを立ち上げた。

そして、スパコンの中で待機していた3つのしもべに命令したのだった。


「リリ、ティラミス、リョク」

「街中の監視カメラをハッキングして、彼の映像を手に入れて」


しかし、そんな私のお願い命令にリョクは言う。


「マスター。彼の画像を手に入れてって言いますけど、私達、相手の人の顔どころか名前すら分からないんですけどぉ」


そうだった。

私は押し入れから自作の『頭の中よみとおる君』を取り出すとすぐさまかぶり、彼の映像を取り出して情報をリョクたちに転送した。


「名前は分からないけど、顔情報でよろしく」


「ヴ・ラジャー」


それから10秒くらい待って『まだかなぁ』と貧乏ゆすりを始めたちょうどその頃、リョクたちから結果報告が来た。

私は、受け取った映像を写真にして部屋中の壁に貼り付けて若気にやけていたが、やがて、それでは物足りなくなってしまった。


「そうだ、彼が住んでいるところを調べれば、いつでも陰から見守ることが出来る」


そう考えた私は、役所のサーバーに不正アクセスして彼の顔情報と一致するワイナンバー情報を入手することに成功した。


一色蒼治良いっしきそうじろう………これが愛しの彼の本名………」


それからは、彼の家を覗き見る日々が続く事になる。

といっても、彼の家はすぐ隣であった。

ならば、父と母が彼に関する有益な情報を持っているかも知れない。

私は、それとなく聞いてみることにした。


「隣の家の一色蒼治良ってどんな人?」


その問いに対し、母は端的に答えた。


「頭のおかしな中年中二病患者よ」


そして、こう続けた。


「人に一切興味を持たなかったアンタが珍しいねぇ。ひょっとして、その男に恋でもしたのかい?いや、まさかねぇ………って、えっ!?マジで!?」


母の隣で新聞を読んでいた父が、それを折りたたんで口を開いた。


「いやはや、流石はホムンクルス同士、惹かれ合ったといったところか」

「よし、ここは父として威厳を示す意味でも、彼と二人っきりで話が出来る場を提供しようじゃないか」

「なぁに、安心しろ。わしも母さんも、お隣の夫妻とは顔見知りだからね」


そこは、友達じゃないんだ。

そんな事を思いながら父と母に依頼したのだった。

そして、それは次の日にやって来た。

朝起きて階段を下りると、すすまみれの父と母と‥‥恐らく愛しのあの人の父母の計4人。

父が口を開いた。


「あー………すまん娘よ」

「一色さんとこの夫妻と4人で徹夜のなか眠いのを我慢しながら『秘密部屋にGo君一号』を製作したんだが、早速不具合が生じてしまってな……」

「彼を秘密部屋にではなく、異世界に転送させてしまったわい。わっはっはっは」


その報告を受けた私は、僅か30秒の間に部屋に戻って手にしたハリセンで父と母の頭をスパーンと叩いた後『秘密部屋にGo君一号』の所まで案内させて、私はそれに乗り込んだ。


「行くんなら、この子達も連れて行きな」


頭をさすりながらの母はそう言うと、リリ達が押し込められている携帯型汎用スパコンをポイっと投げ渡して来てビッと親指を立てた。

こうして、私は3つのしもべと共に愛しの彼の待つ異世界の星マルスへと旅立ったのであった。


------


「どうだ?この自作自叙伝ビデオ、中々の出来だろ?」


居間のソファの中央で腕を組みながら父様は得意顔ドヤがおを決めた。


「はぇ…まさか『伝説の英雄』様が異世界人だったなんて」


「そうですね。びっくりです」


自作ビデオの内容を正史だと思い込んだりんとキャリーは言う。


「道理で人間業とは思えない程、お強いわけですね」


瑛三郎えいさぶろうは真顔で、また尊敬の眼差しを父様に向ける。

それを満更ではない若気にやけ顔で父様は聞いていた。


「おーい、三人とも。これは作り話じゃぞ」


わしの言葉に三人は部屋中に響き渡る程の驚きの声を上げたのじゃった。


‥‥‥。


「いやぁ、流石に信じるとは思ってなかったなぁ」


父様はVHSビデオテープを手に言う。


「というか、父様。どうしてこんなビデオを作ったのですか?」


「いや、作ったのは俺じゃないよ」

「なんか緑子みどりこがさぁ、このマルスに移住してくる前の遠い未来の地球・・・・・・・で俺達によく似た住民が生まれたって、ずっと映像を撮り続けてたらしい」

「それを、このまえ会った時に貰ったんだよ」

「実際見てみたら、そっくりでびっくりしたよ」


はっはっは、と大笑いしながら父様は言う。


「確かによく似てますねぇ。御主人様マスターも出会った頃はあんな感じでしたし」


わしの肩に乗ったリョク姉はあごに手を当てながら言う。


「でも…あれ?……確かリリちゃんとティラミスちゃんって、このマルスに来てから御主人様マスターが作ったはずですよぉ………えっと………書庫を検索してみましたが間違いないですぅ」


「なんじゃと!?まさか緑子姉様………」


「ええ………恐らく」


「ん?どしたの?」


わしとリョク姉が真相に気付く中、父様は首をかしげた。

瑛三郎達三人も父様同様に首を傾げていた。


(絶対にここに来てから主様マスターたちの遺伝子情報を元に作った実験体ですよぉ)


(じゃろうな…じゃが、作ってしまったものは、もうどうしようもあるまい)

(恐らく母様は気付いておるはずじゃ。じゃから、もう、そっとしておこう)


(ですねぇ。関わりたくないですし)


「何か分かった事があるのか?ニーニャ、リョク」


「いえ…父様………それより、この二人はそれからどうなったのですか?」


「あぁ、何でもごく最近の事らしくてな。それから先はまだ無いんだ」

「だが、二人とも無事らしいぞ」

「なんでも、今は地球に帰るための資材を手に入れるためにダンジョン内で冒険しているそうだ」


「そうなんですね。何はともあれ無事で良かったです」


後日、こっそり緑子姉様に問い合わせたところ、地球の神やこちらマルスの神たちがもし、父様と母様が一般・・の家庭で生まれ育ったらどうなるか見てみたい、ということで仕方なく緑子姉様も計画プロジェクトに参加したということじゃった。


「って、この話続くんですかねぇ…」


「作者次第じゃろ」

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