第48話 テーブルゲーム

あれからというもの、父様は事あるごとに転送魔法陣を使っては城に直接遊びに来るようになっていた。


「今日は、これを持ってきた」


そう言うと、父様は居間のテーブルの上にそれを置いた。


「えっと………『すらすら☆ふぁんたじあ』って書かれてますね」

「見た目は普通のテーブルゲームのようですねぇ………」


リョク姉の感想に、わしは『そのようじゃな』と答える。


「ふふふ、これはただのテーブルゲームではない」

「なんと!俺が作ったのだ!」


そう言うと、父様は胸をピンと張って得意顔ドヤがおを決めた。


「うわぁ………地雷臭しかしないですぅ………」


リョク姉のいう事はもっともであった。

何故なら、わしが家に居た引きこもっていた頃に、父様自作の面白くないテーブルゲームを散々プレイさせられたからの。


「はっはっは。酷い言いようだな、我が愛しの娘よ」

「それを最後にプレイしたのは100年も前の話じゃないか」

「あの頃とは違うのだよ」


何やら中二病臭いポーズを決めながら父様は言う。


「うわぁ、これ『スライモ』ですかね。かわいい」


「この『ラビットスライム』も可愛いですよ、キャリーさん」


わし等の会話とは裏腹に、キャリーとりんの黄色い声が隣から聞こえて来た。

もっとも一人は男じゃが。


「この絵も蒼治良そうじろう様が描かれたのですか?」


キャリーは目をキラキラさせながら訊いた。


「いや、その『スライモ』はネネカで、それ以外の『ラビットスライム』も含めたやつはココにいるティラミスが描いたものだ」


全員の視線がティラミスに向く。

そんな熱い視線にティラミスはうつむいてしもうた。


「はっはっは、相変わらず人見知りなやつだなぁ」

「そんな事はともかく、今日はこれを一緒にやろう」


やはりと言うか、わし等に拒否権は無いらしい。


とりあえず一通り目を通したところ、ごくごく簡単なTRPGっぽい感じのするテーブルゲームじゃった。

父様も一応は腕を上げたようじゃ。

ただ、まだ製作途中なのか選べる種族は人間の戦士、エルフの魔術師、ドワーフの治癒術師に加え、妖精族ポックルの斥候、獣人族ニーアの戦士、機械人間ドロイドの戦士、スライムの戦士と、職業と一体となっておった。


何故にスライムがおるんじゃ?


「あぁ、それはだな」

機械人間ドロイドはチート種族だから、選びたい場合サイコロを振る必要があるんだ」

「で、6が出たら選べるが、それ以外だとスライムを選ばないといけない」

「そんな仕様だ」

「ちなみにスライムは最弱だからな」


そう言うと父様は大いに笑った。


「パーティは何人でしょうか」


今まで沈黙していた瑛三郎えいさぶろうが父様に訊く。


「一応、俺がゲームの進行ゲームマスターで、俺の隣に居るティラミスを含め君たち全員がプレイヤーだ」


ということは、わしも含めて6人パーティということか。


「よし、じゃあ、わしはエルフを選ぶぞ」

「なんたって、実際に美少女エルフじゃからな」


「自分で言ってて恥ずかしくないか?」


即座にツッコミを入れて来た瑛三郎をスルーして、わしはエルフのカードを手に取った。


「じゃあ俺と麟は人間で………」


瑛三郎が人間のカードを手にしようとしたところで、わしは止めた。


「ちょっと待て、瑛三郎」


「どうした?」


「それは罠じゃ。お主はドワーフを選ぶが良い」


「いや、まぁ別にそれでも良いが…何かあるのか?」


疑問に思いながらも瑛三郎はドワーフの治癒術師のカードを選び、その瞬間父様の『ちっ』という舌打ちが僅かに聞こえて来た。

やっぱり、何か仕掛けがあったか。


「後はそうじゃな、りんは『人間の戦士』で、キャリー殿は『獣人族ニーアの戦士』、リョク姉は『妖精族ポックルの斥候』じゃな」

「ティラミスはどうする?『機械人間ドロイドの戦士』を選んでみるかや?」


「お嬢様がそうおっしゃるのであれば」


というわけで、サイコロを振る事になった。


「ちなみにティラミスにサイコロを振らせるのは無しだからな」


父様は案の定、釘を刺してきた。


「どうしてティラミスさんに振らせたら駄目なんだ?」


という瑛三郎の問いに。


この子ティラミスは自在にサイコロの目を出せますからねぇ」


リョク姉が答える。


「そういう事じゃ。ティラミスは実際にチート持ちじゃからの」


わしはそう言うとサイコロを振った。


コロコロコロコロ


出た目は4じゃった。

というわけで、ティラミスの種族は『スライムの戦士』に決定と相成った。


人間エルフわしドワーフ瑛三郎妖精族リョク姉獣人族キャリースライムティラミスという5人と1匹?のパーティが出来上がったのじゃった。


「よし、みんな職に就いたな………ぐはっ!」


「!?ど、どうしたんですか!?」


「いや………何でもない………何でもないんだ、瑛三郎君」


自身の発した言葉に自分で傷付く父様。


「瑛三郎、気にするでない」

「単に『みんな職に就いた・・・・・・・・』という台詞に、心が耐えられなくなっただけじゃ」


「そうなのか?」


「うむ。わしなど生まれてこのかた職に就いた事無いから気にもせんが、父様はかつて職を失って何年か職に就けず無職だった頃のトラウマが頭をよぎるらしい」

「みんな新しい職に就いていくのに、自分は無職のままだというトラウマが」

「もう1万年以上も前の話じゃというのにのぅ」


とまぁ、そんな事はともかく、物語は始まる。


「それは…遥か昔の事………」


父様は、森◯レ◯風にゆったりとした声を出すが、最後まで聞く気はない。


「父様、オープニングは飛ばして下さい」


「えー………せっかく考えて来たのにぃ」


父様は渋々、世界設定の書かれた紙を置いた。

そして咳ばらいをした後、再度口を開けた。


「貴方たちのパーティは、ランスの町に到着をしました」

「行動を次の中から選んでください」

「1.ギルドで依頼を受ける 2.町の外に出る 3.宿屋で休む 4.武器屋に行く」


「3じゃな」


「3ですねぇ」


わしとリョク姉は即答する。


「ん?別にギルドで依頼を受けた後に行っても良いだろ?」


「瑛三郎、これは罠じゃ」


「どういうことだ!?」


瑛三郎だけでなく、麟とキャリーも困惑気味であった。

そして、密かに父様の『ちっ』という舌打ちがかすかに聞こえて来た。


「恐らくパーティは町に入る前に戦闘をしておるはずじゃ」


「ですねぇ。体力がすでに限界になってると見て間違いないですよ」


「そうじゃ」

「じゃから、先ずは宿屋で体力の回復をするのが正しい選択なのじゃ」

「のぅ、父様」


「あー……そうだった、そうだった」

「実はパーティ全員、既に疲労困憊であった」

「もし『3.宿屋で休む』を選択していなければ、今頃パーティの一行は町中で倒れていたに違いない」

「こうしてエルフニーニャ妖精族リョクの機転によってパーティの危機は回避された」


「とまぁ、父様の作ったゲームはこんな感じで、わざと説明を省いて間違った方向に進ませようとするんじゃ」


わしの言葉に瑛三郎、麟、キャリーは納得する。


「それはともかく、ティラミスも気付いたらちゃんと指摘するんじゃぞ」


「すらすら」


ティラミスはそう言って首を縦に振る。

忘れとった‥‥‥ティラミスは今スライムじゃった。

その瞬間、わしはハッとして父様の顔を見た。


ニヤリ。


しまったーっ!!!

機械人間ドロイドを選ばせたのは罠じゃったか。

わしがサイコロを振るのも想定内じゃったのじゃろう。

何せサイコロ運が無いからの、わし。


仕方なく、話は進む。


「宿屋で十分に休んだ貴方たちの体力は全快し、次の日の朝を迎えた」

「行動を次の中から選んでください」

「1.ギルドで依頼を受ける 2.町の外に出る 3.宿屋で休む 4.武器屋に行く」


「今度こそ1だな」


そう言う瑛三郎に待ったをかけた。


「ここは4じゃ」


「ですねぇ」


わし等の言葉に瑛三郎、麟、キャリーは首を傾げた。


「別に1を選んだ後に4を選んでも良いだろ」


「これは罠じゃ」


「またかよ」


「1を選んで依頼を受けるとするじゃろ?」

「そしたら、直ぐに町を出立しなければいけない事態になるはずじゃ」

「そうなれば、壊れた武器を装備したまま町を出ることになるんじゃ」

「まぁ、今回は治癒術師とはいえドワーフ瑛三郎がパーティにおるでの、武器を直すことは出来るじゃろうから問題は無いと思うが」

「のぅ、父様」


見透かしたような目で、わしは父様を見る。


「えっ?………あー、そうだった、そうだった」

「実は、この町に来る前の戦闘でパーティ全員の武器は壊れてしまっていたのだ」

エルフニーニャたちはそれを思い出し、パーティは真新しい装備を手に入れたのだった」

「それでは、次の行動を選んでください」

「1.ギルドで依頼を受ける 2.町の外に出る 3.宿屋で休む 4.武器屋に行く」


こうして、今度こそ1を選ぶとギルドでスライム討伐の依頼を受けたのだった。


「では、スライム討伐に行くかの」


エルフニーニャの言葉に、パーティは『おー!』と掛け声を上げる」

「だが、ここで思わぬ事態がパーティを襲うのだった」


「ほらの?わしの言うとおりじゃったじゃろ」


「確かに…流石は娘だけのことはあるな…」


「まぁ1万年も付き合いがあるからのぅ。父様の考えなど手に取るように分かるわい」


わしは得意顔ドヤがおで慎ましい胸を張った。


「えっと、続けていいかい?ニーニャ」


「了解です。父様」


「パーティがギルドの建物を出て直ぐの事であった」

「『スラッ!スーラスラスラスラッ!!!』とパーティのスライムティラミスが何やら言ったあとパーティから離脱し、町の外へと一匹出て行ってしまった」


「あー、これはあれじゃな。同族狩りに反対してパーティを抜けてしまったってやつじゃな」


「どうするんだ?」


「どうせスライム討伐に行くんですし、途中で出くわすかもしれませんねぇ」


「そうじゃの」


わしはリョク姉の言うことに納得して、そのまま討伐に向かう事にした。


「パーティ一行は町を離れ小一時間ほど東へ歩くと、そこには木々が鬱蒼と生えた森があった」

「一行は森の中へと足を踏み入れる」

「パーティの隊列は『人間の戦士』『獣人族の戦士キャリー』『ドワーフの治癒術師瑛三郎』『妖精族の斥候リョク』『エルフの魔術師ニーニャ』です」

「ここでサイコロを一つ振って下さい」


「誰が振る?」


「ニーニャが振ればいいじゃないか?」


「ですねぇ、一応この作品の主人公ですし」


「リョク姉はまたメタい事を…まぁ、ええわい」


コロコロコロ


「2じゃな」


「おおっと!?何という事でしょう、パーティのうち先頭を歩く麟とキャリーの二人が森に生えていたつるのトゲで足を怪我してしまったようだ」

「しかも毒まで受けてしまったようだ」


「という事は、俺の出番か」


「そうじゃな」


「しかし、幸運な事にパーティにはドワーフの治癒術師がいた為、事なきを得たのだった」


「これ、俺がドワーフを選んでなかったらどうなってたんだ」


「ま、恐らくサイコロを振って出た目が悪ければ死亡ってところじゃろ」

「そうでしょう、父様?」


「毒を治療したパーティ一行は、森の探索を再開したのであった」


「あ、スルーしましたよ、ニーニャ様」


「そのようじゃ。恐らくわしの予想で当たっておるんじゃろう」


「どのくらい時間が経ったであろうか、ともかくパーティは幸運な事に森の中でモンスターに出会う事も無く、森を抜けたのだった」

「森を抜けると、そこは一面お花畑があり空は雲一つない青空が広がっていた」

「一行は、足元に咲く花を楽しみながら足を進めた」

「それから程なく、一行の前にモンスターが姿を現したのだった」

「ここで、サイコロを一つ振って下さい」


コロコロコロ


「5です。父様」


「おおっ、何という事でしょう」

「一行の前にはとても可愛らしい『ピンク色のラビットスライム』が5匹現れました」


父様はそう言うと『KRスライム』と書かれたモンスターのカードをわしらの前に置いた。


「うわぁ、可愛いですね」


カードのイラストを見たキャリーは、頬を朱色に染めながら言う。

ちなみに、そんなキャリーを麟が惚けた顔をしながら見ていたのは突っ込まないことにした。


「ところで父様。このKRとは何の意味があるのですか?」


「さぁ、パーティ一行の行動を選びたまえ」

「1.戦う 2.逃げる 3.近づいて愛でる」


「うわっ、またスルーしましたよ。ニーニャ様」

「これは2を選択ですねぇ」


「じゃの。これは何かあるのぅ」


「まぁ、でも1で良いんじゃないか?スライム討伐に来てるんだし」


「僕も瑛兄さんに賛成します」


「駄目ですよ。こんなかわいいスライムを攻撃するなんて」

「3です、3ですよ」


とまぁ、完全に意見が割れた。


「どうするニーニャ。選び方は好きでいいぞ」

「皆で話し合って決めるもよし、サイコロで決めるもよし。だ」


父様はふんすと鼻息を吐く。

あー‥‥‥これは、どれを選んでも何かありそうじゃ。


「というわけで、サイコロを振って1か2が出たら戦う、3か4が出たら逃げる、5か6が出たら近づいて愛でる、ということでええかや」


というわしの提案に誰も反対しなかったので、サイコロを転がした。


コロコロコロ


「やりました。近づいて愛でるですよ」


キャリーはそう言うと『KRスライム』のカードを手に取り顔を近づけ、まじまじとイラストを眺めはじめた。


「おおっと!?何という事でしょう」


「えっ!?」


父様のいきなりの言葉に、キャリーは驚きの声を上げる。


「やっぱり罠じゃったか」


「ですねぇ」


とりあえず、父様の話を聞くことにする。


「なんという事でしょう…不用意に近づいた『獣人族の戦士キャリー』は『KRキラーラビットスライム』のクリティカル攻撃を受けて首を切られてしまいました………」


『ええっーーーーっ!!!』


そりゃ『ええーっ!』ってなるわい。

あ、ちなみに、わしとリョク姉以外が驚いておるぞ。

なお、スライムティラミスはこの場に居ないという設定のため、無言で静かに座っておる。


「だから言うたじゃろ…」


「おおっ……なんということだろうか」

「他の『キラーラビットスライム』たちも他のメンバーに襲い掛かり、次々とクリティカル攻撃を受け地に伏していったのであった………」

「そして、キラーラビットスライムが去ったのち、一匹のスライムティラミスが現れ惨状を目の当たりにしたのであった………BAD END」


------


「全く、じゃから『逃げる』の選択じゃ言うたのに」


わしは、もっしゃもっしゃとキャリー特製の不死身饅頭を口に頬張りながら言った。


「いやぁ、済まない済まない。はっはっは」


父様は悪びれもせずに、わし同様不死身饅頭を頬張る。


蒼治良そうじろう様。他の選択肢を選んでいたらどうなっていたのですか?」


キャリーは一番の被害者でありながら、怒りもせずに父様に訊いた。


「あぁ………」


父様は、口の中でもごもごと食べていた不死身饅頭を飲み込むと答えた。


「戦うを選んでいたら、実はスライムティラミスがパーティに戻って来て一緒に戦うっていう熱い展開があったんだ」

「逃げるを選んでいたら、他の普通のスライム討伐として終わる感じだな。この場合スライムティラミスは永遠にパーティから外れることになるんだがな」


そう言うと、大いに父様は笑う。


「まぁ、他にも分岐は考えていたぞ。パーティ編成とか選択肢によってな」


「つまり、あの選択は瑛三郎えいさぶろうりんが正しかったという事じゃな」


「そうみたいですねぇ」


こうして、わしらは和気藹々と午後のティータイムを楽しんだのじゃった。

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