第47話 何しに来た?

それは、ある日突如としてやってきたのじゃ。


「ぐっもーにん、みんな元気にしてたかい?」


軽い挨拶と共に、城の居間に現れたのは父様だった。

瑛三郎えいさぶろう達と出会ってからそれなりに時間が経ったこともあり、すっかりと友達気分であった。


「父様、来るなら来ると事前に言って下さい」

「それに、お昼もとうに過ぎてます」

「と言いますか、馬車の音が全くしませんでしたが、どうやって来られたのですか?」


この城は周囲に結界が張られておるので、馬車が近付けば直ぐに分かる仕様になっておる。

しかし、その結界の警告音は作動しなかった。


「ふっふっふ。それはだな」

「まぁ、ここで説明するのもアレだから付いて来てくれ」


まるで、この城の主であるかのように振舞う父様だが、この城の主はあくまでわしじゃ。

とりあえず、仕方ないのでわしらは父様に続いて居間を出た。


「こ、こ…こんにちは、皆様。お嬢様もご機嫌麗しゅうございます」


出て直ぐに出くわしたのは、顔が前髪で覆われて表情をうかがい知ることの出来ないティラミスであった。

ティラミスは人見知りなところがあるため、未だに瑛三郎たちとも打ち解けてはいない。


わしとリョク姉を除き皆とぎこちない挨拶を交わすと、一人先を行く父様に追いつくために小走りに走った。

わしらもそれに続いて父様に追いつくと、何か思い出したかのような仕草をした父様は突如として瑛三郎の背後に回った。


「っ!」


「ふっふっふ。まだまだだな、瑛三郎君」


父様は瑛三郎の肩をポンと叩くと、その右隣へと歩みを進めた。


「凄い…全く動きが見えなかったですよ」


「流石はニーニャさんのお父様ですね」


りんとキャリーがひそひそ話をしたが、当然父様はそれを聞いていて若干悦に入っていた。


「まぁ主様マスターは、この世界・・・・では最強の存在ですからねぇ」


リョク姉は麟とキャリーに説明する。


「もっとも、精神アストラル世界も含めたら四番目・・・ですけどね」


と、余計な一言も忘れないのがリョク姉である。


「そんな凄い人より更に凄い人が、他にも居られるんですねぇ」


麟はそう言いながら父様を見た。

なお、四番目の説明の時から、ちょいショボーンとした顔をしていたが、それは言わないでおくとしよう。


「それはそうと、瑛三郎君」


「は、はい。何でしょうか」


「君……寒いところは好きかね」


「寒いところ…ですか?……そうですね、特に嫌いというわけでは無いです」


「そうかそうか」

「という事は、かき氷なんかも好きだったりするかね」


「そうですね…真夏はよく食べますね」


「うんうん。そうだろう、そうだろう」


「寒いところではな、凍った湖に穴をあけて魚を釣ったり出来るんだぞ」


「あぁ、良いですね。今までそういう経験ありませんし」


「おおっ!そうか。やってみたいか」


「そうですね。機会があれば」


「よしっ、瑛三郎君」


「はい」


「君に、シビルへの転属を命じる!」


「えっ!?」


得意顔ドヤがおで瑛三郎にシビルへの転属を言い放つ父様。

その瞬間、瑛三郎と麟とキャリーの顔が凍り付いたのは言うまでもない。

あ、ちなみにシビルっていうのは、父様たちが住むガザンの村より更に北にある超絶極寒の街じゃ。


「えっと……それは……いつから…でしょうか」


困惑しながら父様に訊く瑛三郎。

時折、左隣にいるわしをちらちらと見ながら。


「えっ!?……あ、いや……それはだな……」


予想外の返答に父様も困惑する。


「父様。冗談は、そこまでにして下さい」

「あと、瑛三郎も本気にするでない」


‥‥‥。


「いやぁ、済まないねぇ」

「まさか、本気にするとは思ってもみなかったよ」


頭を掻きながら苦笑いする父様。


「済みません。冗談だとは気付かず…」


「謝る必要はないぞ、瑛三郎」

「そもそも、ほんの少し一緒に遊んだだけで、もう友達気分の父様も父様なんじゃからの」


「酷い、ニーニャ。父さん悲しいよ…」


「とまぁ、これが主様マスターですので、覚えておいて下さいね」


リョク姉の端的な説明に皆納得したのであった。


「ところで、父様。どこまで行くのですか?」


「あぁ、それなら…もう着いたぞ」


父様が立ち止まったのは、中庭にある地下道の入口‥‥ではなく、その近くにある壁。

実は、この壁は隠し扉になっておる。

もう既に、この壁の存在も気付いておったのか。

恐るべし、父様。


父様が壁に手をかざすと、あっという間に壁が消えてなくなる。

中に入ると、薄暗い部屋の中央にいつの間にか魔法陣が描かれていた。


転送魔法陣これで来た」


これには、わしとリョク姉を除いて皆が驚いた。

そりゃそうじゃ。

この世界では、伝説上の魔法じゃからの。


「こんなもの、いつの間に描いたんですか、父様…」


「まぁ、私が描いたんですけどねぇ」


リョク姉はあっさりと自供した。


「そそ、リョクからそれを聞いてな」

「本当に使えるか試してみたんだよ」


父様は胸を張って得意顔ドヤがおを決めた。


「でも、良いのですか?」

「この事が『CWM創始者の会』に知れたら、また怒られますよ?」


「おぉ、それなら大丈夫だ。愛しき我が娘よ」

「今回は、ちゃんと事前に登録申請して承認を得てるからな」

「まぁ、それより更に前にリョクが描いていたことはもちろん内緒にして、だがな」


そう言って父様は大いに笑った。

そして、その事は墓まで持って行こうと皆は心の中で思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る