第45話 過去話 後編
※ 今回も瑛三郎視点で話が進みます
こうして、俺達3人のパーティで魔王討伐が始まった。
この時の俺は、ニーニャがいれば直ぐにでも終わるだろうと思っていた。
だが‥‥‥。
「おーい、そっちにまだゴブリンが残っておるぞー」
ニーニャはゴブリンがやって来ない木の上で、ぷてちをもっしゃもっしゃと食いながら叫んでいる。
魔王討伐のため出発してからはや2週間。
ニーニャは一向に戦闘に参加することも無く、一人安全な場所でお菓子を食べながら観戦しているだけだった。
そして、戦闘が終わり安全になると傍まで寄って来る。
「よし、先を進むとするかの」
目的地の村に向けて指を差す。
「あの、ニーニア様」
「なんじゃ、瑛三郎」
「出来ましたら、ニーニア様もお力添えいただきたいのですが…」
「ふふふ…瑛三郎よ」
「はい」
「わしは、いわば最終兵器」
「それに、どこで魔王が見ておるか分からんしの」
「手の内をさらすような真似は出来んのじゃ」
「あと、遥か太古より『能ある鷹は爪を隠す』というではないか」
「では、魔王との戦いには参加していただけると」
「えっ!?…うっ…うむ!そうじゃの…考えておこう」
ニーニャは、頬を指で掻きながら目を逸らす。
「………承知いたしました」
そして、俺はこの日を境に『ニーニア様』呼びを止めた。
「ニーニャ、少しは手伝え!」
戦闘の度に、俺はそう言うようになった。
最初こそ俺の呼び捨てにニーニャは目を見開いて一瞬驚いた表情をしていたが、本当にそれも一瞬のことで俺の呼び捨てをあっさりと受け入れていた。
「そのうちにの」
こうして、俺達は旅を続けた。
魔王城まではそれほど遠い場所ではないのだが、各要所を魔王軍の幹部が守っているため、言うほど簡単には進むことは出来ないでいた。
そもそも、俺や麟は冒険者ではないため、戦闘経験を積みながらであったのも原因の一つだった。
今日解放した村の酒場にて。
既にニーニャの姿は無く、宿でぐーすか寝ている。
「瑛兄さん…やはりニーニア様を呼び捨てにするのは不味いのではないでしょうか」
「ニーニャも特に止めろとは言ってないし、大丈夫だろ」
「ニーニア様は優しい方ですので大丈夫かもしれませんが、どこで誰が聞いているとも分かりません」
「この事が知れ渡ってしまうと『稀代の…伝説の英雄のご令嬢に無礼だ』という人も現れるでしょう」
「そうなると…」
俺に命の危険が及ぶ‥‥と言いたいのだろう。
俺だけじゃない。
須藤家そのものが標的となるかも知れない。
「分った。表立っては言わないことにしよう」
「それがいいと思います」
魔王討伐に出発してから1カ月が経過した。
その日の前日に解放した村の酒場にて朝食を摂り、出発の準備は既に整っていた。
ニーニャ以外は。
「ニーニア様来られませんねぇ」
「大方、朝食を食べた後二度寝でもしてるんだろ」
俺はニーニャの部屋の扉を開ける。
案の定、ニーニャは布団の上で寝息を立てていた。
「…ったく…」
頭を掻きながらニーニャを起こそうとしたが、俺はある事に気付いた。
ニーニャが居ようが居まいが、関係ないことに。
俺は部屋の扉をそっと閉じて、宿屋を出た。
「あれ?ニーニア様は?」
何時ものようにニーニャの首根っこを掴まえて出て来ると思っていた麟は驚く。
「寝てたから放って置く」
「え!?でも…」
「それに、どうせ戦闘に参加しないんだ。連れて行くだけ無駄だろ」
「むしろ、居ない方が助かる」
あいつは何時も安全な場所で陣取っているが、一応、常に気を付けて見ている必要があった。
言いたくはないが、お荷物なのだ。
「それに、今日の討伐箇所は近くの洞窟の残党狩りだし、行って戻ってくる頃には起きてるだろ」
「それもそうですね」
こうして、俺達二人は洞窟に残っている残党を狩りにいったのだが‥‥‥。
「ぐっ…まさか、こんなやつがいるとは…」
残党狩りだと安心しきっていた俺達の前に現れたのは、八魔将の一将であり身の丈は4m、筋骨隆々の肉体を持つオーガロードであった。
「グググ、このような辺鄙な村の洞窟にまさか
「くっ…これならどうだ、四連撃っ!」
「ぬるいぬるい。温すぎるわっ!小童がっ!!!」
現時点で俺の放てる最高の剣技であったが、ことごとくオーガロードの金剛棒によって弾かれた。
「
「村で待っておる
オーガロードはそう言うと、邪悪なまでの下卑た笑みを浮かべた。
「フンヌッ!!!」
オーガロードは金剛棒を大きく振る。
「ホーリーシールドっ!!!」
麟の唱えたホーリーシールドが俺の前方に展開する。
「無駄なことよっ!」
オーガロードの言うとおり、それは一瞬にして粉々に打ち砕かれ、避け遅れた俺は金剛棒の餌食となった。
「ぐはっ!がっ!!!」
「瑛兄さんっ!!!」
洞窟の壁に受け身を取ることも出来ず激突し、そして、地に伏すように倒れた。
「ごほっ!ごほっ!ごほっ!……」
視界には俺の吐き出した大量の血で溢れかえる。
どうやら、ここで終わりのようだ‥‥。
駆け寄りヒールを唱えようとする麟に言う。
「俺を置いて…さっさと逃げろ…」
「そんなこと出来るわけがないじゃないですかっ!」
「ヒール、ヒール、ヒールっ!!!」
麟は必死に何度もヒールをかけるが、俺の状態は一向に良くなる気配はない。
恐らく、今の麟では治せない程の傷なのだろう。
「グググ。さて、お遊びもこれで終わりよ」
オーガロードは金剛棒を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべながら近づいて来る。
まぁ、だがなんだ‥‥あいつを連れてこなかったのは幸いだ。
俺は、そんな事を思いながら目を閉じて意識が失われゆく中、体を包み込む温かさと共に聞きなれた声がした。
「全く…わしを置いてゆくからこうなるんじゃ」
‥‥‥。
目を覚ました俺はガバッと即座に上半身を起こした。
「あ、瑛兄さん目覚めたんだね」
麟が笑顔で駆け寄って来る。
「あぁ…すまん。だが、オーガロードはどうした?」
「それが…僕もいつの間にか気を失っていて、気が付いた時には倒されてました」
「なんでも、たまたま村に立ち寄ったという『闇夜の黒猫団ダルク・キャッツ』というパーティの方々が倒して行かれたそうですよ」
「そうですって…誰から聞いたんだ?」
「わしじゃ」
背後からする声に後ろを振り向くと、そこには正座姿のニーニャが居た。
何でも、置いてきぼりを食らったニーニャは、その村にたまたま立ち寄ったというパーティに頼んで連れて来てもらったらしい。
「そうじゃ、つまり、わしが助けたようなもんじゃ」
ニーニャは正座姿のまま胸を張って
「いや、助けたのはお前じゃなくて『闇夜の黒猫団ダルク・キャッツ』のパーティだろ…」
そう吐き捨てるように言って俺は立ち上がったのだが、次の瞬間、ふと脳裏に意識を失う直前の記憶がよぎった。
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「全く…わしを置いてゆくからこうなるんじゃ」
意識が薄れゆく俺の視界に、小さく色白い足が二本。
「ん?おおっ!貴様の方から我が前に来るとはな」
オーガロードが下卑た笑みで見下ろす相手、それはニーニャだった。
「ふん。わしの連れがえらく世話になったではないか」
「覚悟は出来ておるんじゃろうな?」
「グググ、愚かな。そこな倒れている二人共々燃えカスとなるがいいっ!」
「ファイアストームっ!!!」
「ふん。そんなしょっぼい魔法でわしが倒せると思うたか。この知れ者めが」
「
オーガロードの放ったファイアストームは一瞬のうちに凍り付き、それを驚愕の眼差しで見つめていたオーガロードも程なく巻き込まれ一瞬のうちに氷像と化し…それと共に俺の意識は完全に遠のいた。
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「どうしたんじゃ?」
首を傾げならニーニャが訊く。
「あ……いや…なんでもない…」
「すまない。助かった」
「うむ。わしもパーティを引き連れて来たかいがあったというものじゃ」
「では、村に戻って
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「おーい、起きろー」
ハッとして目が覚めると、目の前にはニーニャが居た。
「俺は…寝てた…のか?」
「そのようじゃな」
朝の一仕事も終わり、ゲームをしているニーニャの隣に座っている間にうとうととして眠ってしまったらしい。
「ふっ…」
「ん?何が可笑しいんじゃ?」
「いや、ちょっと昔のことを夢に見てな」
「ふーん。そうかや?」
「まぁ、それはそれとして」
「喉が渇いたでの。何か飲み物を入れて来てくれ」
そう言ってニーニャはソファに座り直すと、満天童DSでピコピコし始めた。
「………はぁ………なんで俺は………」
俺は溜息を吐きながら立ち上がると、今日もこの
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