第1話 序章
そして、わしは家を追い出された。
ん?何が【そして】だと?
仕方がない、教えてやろう。
あれは3年ほど前の出来事だった(多分)
「ニーニャ、何時まで家に引き籠っている気なのっ!」
突然、母はわしの部屋に押し入ると、そう言った。
「引き籠ってなど居りませぬ、
「ゲームをしていたところ、思いのほか時間が経っただけです」
愛食の【ぷてち】をしゃくしゃくと食べながら、そう答えた。
そう、わしは部屋に居てゲームをしていただけなのだ。
確か、9千年程しか経ってないはずである。
だが、母のこめかみを見ると明らかに青筋が立っていた。
色白なはずの母の顔も、見る見るうちに紅潮していっている。
「貴方に魔王討伐を命じます!」
「おおっ、それは何というゲームですか?」
「ゲームから離れなさいっ!」
「ジェンヌという街は知っているわね?」
ジェンヌ…あぁ、
子供の頃に何度か訪れたことがある。
もっとも、その頃はまだ人口数十人程度の村であったのだが、今は立派な街になっていると聞く。
「そこから東に30キロメートル程の所に、魔王を名乗る不届き者が住み着いて近隣の村を襲っているとの事」
「私とお父さんで討伐しに行こうと思っていましたが、気が変わりました」
「貴方が行って討伐してきなさい」
「母様、愛する我が子を死地に赴かせようというのか」
「…貴方は今いくつだと思っているの?」
「確か…1万とじゅう何歳かと」
「1万18歳ですっ!」
「おおっ、そうでしたそうでした」
母は、目をつむり左の中指の指先を額に押し付けて、ぷるぷると震えながら何かを我慢しているようであった。
「全く、貴方ときたら…
そんな無体な…そうだ、父なら助けてくれる。
今までも、父が取りなしてくれた。
今度も。
そう思い、ふと部屋の開いた扉の外を見ると、父が顔と右手だけをのぞかせているのが見えた。
右手は親指だけを曲げ、それ以外の指はピンと立てていて、つまりは、わしに謝っている格好だ。
「お父さんに助けを求めても無駄ですよ?」
「既に話は付けていますからね」
後で聞いた話だが、母は父に「私と娘のどっちを取るの?」と迫ったらしい。
つまりは、わしより母の方を選んだのだ。
当たり前と言えば、当たり前なのであるが。
こうして、わしは家を追い出されたので、仕方なく魔王討伐へと向かったのだ。
父のコネで旧友の末裔である二人の従者、
そして、苦難の旅を経て、見事に魔王を討ち果たしたのだ。
もっとも、瑛三郎と麟の二人が倒すのを、わしは見ておっただけなのだが。
ともあれ、この戦いで魔王城を手に入れたわしは、ここに住み着くことに決めた。
家に帰っても、母に次は何を言われるか分ったものではないからな。
魔王討伐の報奨金もいただいたし、当分生活にも困らない。
わしの新たなスローライフは、こうして始まったのだ。
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