第35話 継承者と非継承者

今日は、特別オンラインゲームの集会の日ではないのだが、わしらは皆一堂に会しておった。

先日の一件について、CWM創始者の会による会議で議題に上ったらしく、その原因を作ったのが父様の親族(リョク姉)であったことで、事実上の謝罪会見でもあったようだ。

とはいえ、神も動いてくれてアストラル世界より、宇佐千里うさせんり姉様以外のそうそうたる始祖のメンバーもリモート参加して説得してくれたおかげで、結局のところ対象者が全員分家だったこともあり、この一件は誰も聞かなかった・・・・・・・・、という事になった。

とはいえ、今後、瑛三郎、麟、キャリーに何か問題行動が起きれば、父様、母様、わし、リョク姉が責任をもって処理すること、という附帯決議が行われた。

処理、というのは、まぁ、そういう事だ。

あ、ちなみに詩子は分家出身であるが、既に継承者としての儀式は受けているので関係ない。


「いやぁ、何とかなって本当に良かったよ」


主様マスターごめんなさいです。つい口が滑ってしまって」


「本当に。今後は気を付けてね、リョク」


「はっ、承知して御座います。御主人様マスター


リョク姉はカメラの前で、それはもう綺麗なフォームで敬礼を決めた。


「それにしても、始祖の中で千里さんだけ、どうして参加してないんだ?」


瑛三郎は、わしに訊いてきた。


「あー…、えっと、それはじゃな…父様、話しても大丈夫かや?」


「別に構わないぞ。彼らは正式ではないが、既に継承者扱いだからな」

「それに、何かあったとしても、結局、俺たちのやることは変わらないしな」


「そうですね。もう、お分かりかと思いますが、この事は我々だけの秘密ですよ」


父様と母様から許しを貰ったので答えることにする。


「端的に言うと、千里姉様は転生したから、アストラル世界にはもう居らんのだ」

「つまり、今わしらのいるこの世界のどこかにおる、というわけじゃ」


「という事は、運が良ければ会えるかも知れんってことか」


「そういうことじゃの」


瑛三郎達は喜んでおったが、これも言っておかねばならんの。


「じゃが、転生したらそれまでの記憶は一旦消されてしまうんじゃ」

「とはいえ、赤ちゃんからやり直す、というわけじゃなくて転生前の本人の希望をある程度叶えた状態からの転生となるわけじゃ」

「ただ、記憶が無い状態から始まるから、希望どおり上手くいくかどうかは分からんがの」


「ニーニアさん、一旦…ということは、元のアストラル世界に戻ったら記憶が再び戻る、という事でいいのでしょうか」


「おー、よく聞いておったのキャリー殿。そのとおりじゃ」


「でも、別に記憶なんて消さなくても良いんじゃないのか?」

「最悪、世界の敵になる可能性もあるんだろ?」


「そうですよね。折角、世界の創世に携わった功労者が、そうなる可能性もありますよね」


「うむ。じゃから、だーれも転生しようなんて思わんのじゃ」

「しかし、千里姉様は…まぁ、あれじゃ。この世界に置いてきた人がおっての」

「20歳年の離れた、わしの弟…シンという名前なんじゃが、それと出来ておったんじゃ」


「千里さんは、俺達を裏切ったって言ってなぁ…」


「まぁ、それで、シンから逃げるように旅立ったんじゃ」

「当時は新しい開拓地として、東の最果てにちょうどいい感じの島があっての」

「シンに内緒で、その島移住プロジェクトに参加して去って行ったんじゃ」

「それが、後々和国と呼ばれる国の基になるんじゃがな」

「で、当然、千里姉様が居なくなったことはあいつにも直ぐにバレたわけじゃが、プロジェクトは継承者だけの極秘事項での」

「それでもあいつは諦めずに、千里姉様を追いかけて一人村を出て行ってしもうた」

「どこに行ったのかも分からんというのに…」


「おい…そんな状態じゃ、生きていく事すら出来んだろ…」


「まぁ、そこはほれ、神が自分で生きる術を磨くまではちょちょっと面倒を見てくれておっての」

「あいつが結局、和国の元になった島に到着したのは、それから10年もあとのことじゃった」


「じゃあ、そこで会えたんですね」


「いや、実は千里姉様は実際には島に到着してから間もなく亡くなったんじゃ」

「産後の肥立ちが悪くての」

「この世界の初めての人々としては、一番最初に亡くなった人でもある」


「産後の…ってことは、その子供って…」


「そうじゃ、シンとの間の娘じゃな」

「じゃが、あやつは一目見ただけで何も告げずに、近くの山に一人引きこもったそうじゃ」

「20年ほど」

「まぁ、一応見守ってるつもりだったんじゃろう」

「その間に娘にも子供が出来て、それが今、和国で姫と呼ばれとる子じゃ」


「詩子さんがキャリーさんとの会話で、姫って言われてた方ですか?」


「そうじゃ、じゃからあの姫も結構な年じゃの」

「ともかく、その後、あいつは島国を出て放浪の旅に出たようじゃ」

「その旅の途中に、崖から落ちてそのまま死んでしもうての」

「未練を残したまま死んでもうたから、ゾンビになってしもうた」


「おいおい…そういうのは助けたりしないのか?」


「シンは、僕らの子ではあるけど、継承者として認められていない以上、特別扱いはないんだよ」


「そういうことじゃ」

「で、死んだところが、だーれも居らんところでの」

「1万年近く経って、ようやく旅の僧侶の手によって浄化されて、アストラル世界に旅立って千里姉様と再会出来た、というわけじゃ」


「ホント、あの時、どうなっちゃうかと思いましたよねぇ」


「じゃな」


「じゃあ、なんでわざわざ転生したんだ?」


「あぁ、それはじゃな」

「ゾンビ化した者は、直ぐにまた現世に転生する決まりになっておるんじゃ」

「当然記憶は消えた状態での」

「で、転生後のあやつは美女を見つけては口説いておった」

「千里姉様は1万年近くもゾンビ化していたあいつの事を心配して損したわ、って怒りだしての」

「一発ぶん殴ってやる。って神に頼んであやつの傍にいる状態で転生させてもらった、というわけじゃ」


「良い話で終わると思ったのに、一気に駄目な感じになりましたね」


「だな…」

「とはいえ、ニーニャのその表情だと、悪い間柄じゃないって感じか」


「まぁの」

「もっとも、父様と母様から聞いただけじゃから、わしも今の二人の姿は知らんし会っても分からんかも知れんぞ」

「というわけで、話も終わったし、新しいボスを狩りに行くぞ」


「そして、次回に続きますよぉ」


リョク姉は、誰に対して言っているのか、明後日の方向に向かって言ったのだった。

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