第38話 ストーリーのない話
それは、ある日の昼下がり。
わしはいつものとおり、居間のソファで寝転がりながら、地下10階で全滅したパーティを救いに行くべく、サブキャラを作成してせっせとレベル上げをしておった。
「そういえばじゃな」
「昔のヒロインは、どうやってモンスター群れを避けながらイベントの発生するマップに行っておったんじゃろな」
「唐突だな」
「あれだろ。壁や岩に隠れながら、とかじゃないのか」
「じゃが、主人公にはそんな隠れスキルなんてないじゃろ」
「戦って戦って戦って、時間をかけてレベル上げをしてようやくたどり着く場所じゃぞ?」
「不公平じゃろ」
「あー、うん、そうだな」
適当な相槌を打つ瑛三郎。
「病弱だとかいう設定なのに、モンスターのいるマップで倒れている主人公を助けたりとかな」
「どうやってか弱い娘が、屈強な主人公を運んだんじゃ?」
「しかも、鎧を着ておるんじゃぞ?」
「まぁ、そこは、村の人とか呼んで運んでもらったんじゃないのか」
「いや、それはないな」
「なぜなら、そうなのであれば、その村人にも感謝の言葉をせねばなるまい」
「つまり、間違いなく、そういうわけじゃ」
「あ、うん、そうだな」
再び、適当な相槌を打つ瑛三郎。
「まぁ、まだオープニングだけなら良いとしよう」
「オープニングなら良いのかよ」
「じゃが、それ以降もことごとくモンスターのうじゃうじゃいるマップを潜り抜け、事あるごとに主人公の前に現れたらどうだ」
「完全にス〇ーカーではないか」
「まぁ、そういう風に見えるかも知れないが、実際はよんどころない事情があるかも知れないし、あまりそういう風に言うと、この作品がバン食らうかも知れんぞ」
「それは困るの」
「じゃあ、他の話で、例えばヒロインがハー〇ニカを落としたとか言って主人公が探すわけじゃが、何故か洞窟の宝箱の中に眠ってたりしての」
「そんなところで、何で落とすんじゃ?っていうな」
「しかも、どんな汚れが付いているかも分からんというのに、お礼に一曲吹きます、とか言うんじゃ」
「もしかしたら、主人公がペロペロしてるかも知れんというのに」
「お前、そんなことを考えながらプレイしてるのか?」
「いや、普通は思うじゃろ」
「思わねーよ」
「そうか!もしかしたら、そのヒロインはそれも考慮して吹いたのかも知れん」
「関節キ〇スというやつじゃ」
「それ、〇で隠す意味ないからな」
「何という事じゃ。そんな変態的趣向を持っている可能性を失念しておったとは」
「不覚」
「あー、うん。さっきも言ったが、あまり変な事言うと通報されてバンされるかもしれんからな」
「そうであったな」
「ともかく、昔のゲームのヒロインはそういうのが多かった気がする」
「明らかにヒロインの容姿とか性格が、思春期の男子を狙った設定だったり」
「そうやって、二次元のキャラに恋をした結果、本当の思春期における恋愛を逃してしまったりとかな」
「それ、何か身に覚えでもあるのか?」
「んにゃ、わしはないぞ」
「知り合いに、そういうやつがおったのは知っておるが」
「知り合いに居るのかよ…」
「まぁ、そういうわけじゃ」
「最近のゲームだと、共に戦うヒロイン。なんてのが当たり前になっておるから、そういうイベントもめっきりと減ってしまっておるがの」
「それはそれで寂しい、と?」
「じゃな」
「まぁ、しかし、最近は無駄にストーリーがガバガバだったりすると低評価になったりするからのぅ」
「頭の痛いところじゃ」
「ふむ…それで、結局お前は何が言いたいんだ?」
「いや、単にゲームの話をしたかっただけじゃ」
それを聞いた瑛三郎は、天を仰いでソファに崩れるようにもたれかかったのだった。
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