第29話 デーモンロードを倒した

「なっ!なんなんだ、貴様らはっ!!!」


ここは、魔王城とジェンヌの街のほぼ中間に位置している、今では廃城となって久しくなった城の王の間で、叫び声の主デーモンロードの周囲一帯は、二度と動くことのないグレーターデーモン達の屍で埋め尽くされていた。

その数、およそ数十体。


話は、数日前にさかのぼる。


「近いっ!顔が近いっ!」


ほっほっほ、と言いながらギルド長は普通に座り直す。


「で、どうですかな?」


「断る」


「どうしてもで?」


「どうしてもじゃ」


「そうですか…それは仕方がないですね」


そう言って、ギルド長が胸ポケットから取り出して見せて来たのは、最近販売されたものの元々生産数が少ない事もあって速攻で売り切れ状態になってしまい、未だ遊べていない知る人ぞ知るRPGであった。


「そっ!それはっ!」


「いやぁ…本当に残念です」

「もし、承諾していただけるなら、こちらも報酬としてお渡ししようかと…」


「引き受けよう」


「宜しくお願いします」


わしとギルド長は、熱いまなざしで固い握手を交わし、それを瑛三郎と麟、キャリー、そしてアリシアは、乾いた笑顔で見ていたのだった。


そして、再び話は戻って廃城の王の間。

瑛三郎と麟の強さに驚いているデーモンロードに対して、わしはこう言った。


「当たり前じゃ、なんせこやつらは魔王を倒した者達じゃからな」

「今更、魔王より下位のグレーターデーモンなぞ、相手になるわけないわい」


わしは、戦闘の起きていない城の王の間の隅っこにシートを敷いて、キャリーと一緒に瑛三郎と麟が作った特製ハムカツサンドを頬張りながら。

そう、グレーターデーモンと戦っていたのは瑛三郎と麟の二人である。

キャリーは、流石に上級悪魔と戦えるほどレベルが高くないので、わしと一緒にいる。

配達冒険者なのだから、当たり前なのだが。


「その乳でか女はともかく、お前だ、そこのお前っ!!!」

「自分は安全なところで何もせずに、なんでそんなに偉そうにしているんだっ!!!」


デーモンロードは、わしを指差して、そう言った。


「それ、今、俺が思った事まんまだ」


瑛三郎は、そう言ってデーモンロードに相槌を打っていた。

麟は、ただ苦笑いをしている。


「くっそぉ!これだから女はあああああああああぁ!!!」

「魔王様が倒された後も、えー…そんな復讐みたいなめんどい事やだー、とか言って、全部男の俺達に丸投げして来たし、そのくせ、自分たちに都合のいい事だけは男女平等とかぬかしやがるし。なんで、こう、女どもは自分勝手なんだあああああああああぁっ!!!」


デーモンロードは、それはもう、火山の噴火の如く怒っていた。

怒りの矛先は、自分の仲間を倒した瑛三郎や麟ではなく、わしやキャリー、まだ見ぬデーモネスロードやグレーターデーモネス達であるが。


「なんだろう、俺、さっきからこのロードの言っている事に凄く共感できるんだが」


「ははは…」


「そんな事より瑛三郎、さっさと済ませよ。はよう帰って寝たい」


お腹いっぱいになったわしは、既に睡魔が襲い掛かっていた。


「ぐぬぬぬぬぬぬっ!」


デーモンロードは、わしの言葉に更に怒りを増幅させたのか、力いっぱい握りこぶしを作ってプルプルと震えておった。


「…というわけで、ロード、お前には大変共感出来ることが多いが、これも仕事なのでな」


瑛三郎の言葉に、ロードは正気を取り戻したのか、今までわしに向かっていた殺意が消え、瑛三郎の方に視線を向ける。


「ふっ…そうだな。生まれた世界が同じであったならば、お主とは良き友となれたかも知れぬ」

「だが、私は魔王様に忠誠を誓ったデーモン一族を束ねる長の一人」

「簡単にやられはせぬぞ!」


こうして、瑛三郎とデーモンロードとの戦いは三日三晩続いた…なんてことは無かったが、結構長かった。


「ふっ…貴様のような者にやられたのなら、本望というもの」


デーモンロードは、最後に満足そうに言うと、仁王立ちしたまま体は光の粒となって消え失せた。


「ふあぁ…ようやく終わったようじゃの」


あくびをしながら、わしは瑛三郎のところまでやって来て、そう言った。

瑛三郎は、光の粒が完全に消え失せるまで、ただそれを見つめていた。


「…なんじゃ、奴が思ったより人間っぽくて、今更自分がやって来たことに疑問でも持ったのかや?」


「いや、人同士ですら争いは起こるからな。住む世界そのものが違えば尚更だろう」

「ならば、生き残った俺が見送るのがせめてもの供養というもの、だと思ってな」


「そうじゃの。それも良かろう」


こうして、わしらはギルドに押し付けられたデーモンロードの討伐を果たし、見事にゲームを手に入れたのであった。

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