第3話 襲来
「のぅ…予定では、そろそろなのではないのか?」
わしは両の掌の上に顎に乗せ、陰鬱な表情を浮かべながら窓の外を眺めていた。
「仕方がないだろ。雨が続いているんだからな」
わしの右隣に陣取って、両腕を組みながら偉そうにふんぞり返っている瑛三郎はそう答えた。
「流石に、雨の日に工事するわけにも行きませんしねぇ」
わしの左隣で、ちょこんと可愛らしく立っている美少年の麟が言う。
そう、ここ数日、雨の日が続いておって工事が思うように進んでおらんかった。
とはいえ、電気工事を含む大半のインフラは、魔王軍が近隣の村の住民を動員して行っていたため、残すのはこの光ネット回線だけであった。
「それより、実家に連絡を入れなくていいのか?」
「
「一応、領主のセヴァスティアン7世には、わしが
「新たな冒険の旅に出発した事にしておいてもらっておる」
「いや、そうじゃなくてだな」
「ん?なんじゃ」
「回線を引き込んでも、ここにはパソコンが無いんだから、あまり意味は無いだろ」
「あ…」
スマホの
こうして、わしは実家に連絡を入れることにした。
ぷるる、ぷっ。
電話の呼び出し音が1回鳴り終わる前に、相手は電話に出た。
「にいぃぃぃぃぃにゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
あまりの声の音量に、思わずスマホを耳から離す。
「
「大丈夫だ、愛しい我が娘よ。母さんは今、買い物に行って居ないからな」
どうやら、時間どおりに買い物に行っていたようだ。
母様は昔から、決められた時間どおりに行動する癖があるからの。
「それはそうと、元気でやってるか?良い物食べてるか?お風呂は毎日入ってるか?寝る前に歯磨きしてるか?それと…」
「父様、そんな事より、頼みたいことがあるのです」
「おぉっ!なんだ。何でも言ってくれ。久しぶりに父さんがハグをしてやろうか?」
「25時間、何時でも大歓迎だぞ」
「それは結構です」
「頼みたい内容というのは、私の私物を全部持って来てほしい、というものです」
「ん?今、旅をしていると聞いたのだが、持ちきれないだろう?」
父に、現在の状況を説明した。
「成程な」
「では、これは超極秘任務という事だな」
「そう言う事です」
「任せて置け。丁度ジェンヌに用事があったのでな」
「2日後に、そちらに行く」
「で、報酬だが」
「勿論、成功報酬は弾みます」
こうして、電話を切った。
「2日後に来るというておる」
「しかし、流石は稀代の英雄だな」
「娘とはいえ、成功報酬を要求するとは容赦がない」
「そんな方と直接お会い出来るとは…我慢してニーニャに付いて行って良かった」
瑛三郎は、目をつぶりながら右の拳を胸の方まで上げて感心したように言う。
最後の台詞が気になるが、まあいい。
まぁ最も、英雄譚の殆どが捏造なんじゃがな。
「僕も、稀代の英雄に会えるなんて感激です」
目を輝かせながら、麟はそう言った。
感激から地のどん底に落ちねば良いのだが。
そして、約束の日になった。
2時間ちょっと前に、今からジェンヌを立つという父からの電話があり、その時間が来ようとしていた。
部屋の窓を開けて、ジェンヌの方に目をやっていると、小さいながらも馬車らしき姿が目に入って来た。
「おぉっ!来たぞっ!」
わしは、そう言うが早いか、部屋の扉をバンと開き駆け足で城の外へと向かう。
後ろには、瑛三郎と麟も駆け足で付いて来た。
城の外まで出ると、馬車がもうすぐ着くところまでやって来ていた。
あれ?御者は父として、隣にもう一人いる?
目を凝らしてみると…。
「げえっ!母様っ!」
そう、父の隣に母が座っていたのだ。
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