第8話 下手だけど好き

「ニーニャ」


「なんじゃ、瑛三郎」


「お前、めっちゃ下手だな」


三人で囲むようにノートパソコンをテーブルに置き、ゲームを始めたものの、今のところ死んだのはわしだけであった。

何回死んだのかは、既に数えるのを止めた。


「ニーニャ様は、下手の横好きですからねぇ」とリョクがわしの左肩に座りながら言う。


「いや、これはじゃな。年数がな…」


「いえいえ、元々こんな感じじゃないですかぁ」とリョクはからからと笑う。


とりあえず、現状としてわしのレベルは無職の5、瑛三郎は既に剣士に転職してレベルが13、麟もプリーストに転職してレベルは10となっていた。


「仕方ない、俺が盾になって引き受けるから、お前はそれを攻撃していけ」と瑛三郎は言う。


「うぐ…なんか屈辱じゃが、この際仕方ないの」とわしは渋々承諾した。


それから20分程経って。


「おおっ!ようやく転職できたぞ」


「そこまで下手なのに、なんで非戦闘職を選ぶんだ」と瑛三郎が言う。


そう、わしが選んだのは商人だった。


「お主は知らんだろうが、更に転職すれば戦闘スキルも覚えるんじゃ」

「アイテムを高値で売れ、アイテムを安く買え、そして強くもなる」

「それが商人なのじゃ」


わしは控えめだが均整の取れた美しい胸を前面に押し出し、ドヤ顔を決めた。


「つまりは、それまでは俺らが苦労するってわけか」

「まるで魔王討伐が終わるまでの俺らと同じ構図」


瑛三郎は右手の肘をテーブルに付け、掌には顎を乗せながらそう言った。


「道理でデジャヴを感じるわけですね」と麟は苦笑いをしながら言う。


こうして、更に小一時間程してゲームを終えた。


「俺…もう、このゲーム止めたくなってきた…」


瑛三郎はガックリと肩を落とし、首を垂らしながら言う。


「まぁまぁ。頑張ればニーニャ様も強くなるわけですし」と麟は瑛三郎を慰めた。


「なんじゃ、延々と盾をする簡単なお仕事ではないか」


「全世界の盾職に謝れ」

「まぁ、しかしなんだな」


「どうした、瑛三郎」


「魔王討伐の旅ではニーニャが何もしなかったが、そっちの方が遥かにマシだったという事が今回分かって、ある意味有意義だった」


瑛三郎は見えない空を見上げ(見えてるのは天井)今にも昇天しそうな表情を浮かべていた。


「それはどういう意味じゃ」


麟は苦笑いをしているだけだった。


ともあれ、これでわしの商人のレベルは17となり、瑛三郎の剣士は27、麟は25となった。


めでたし、めでたし。

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