第43話 元祖のYs ※序文参照
※最初に、今回の話はこの現実世界において任天堂Switchで発売されたPC-8801mkIISR版ゲーム”Ys”の話です。
「ふふふ、お主の弱点など、わしにはお見通しじゃ」
「銀の装備でガチガチに固められたわしに、もう恐れるものは何もないわい」
いつの間にか、わしの横で覗き見をしている、ゲームの事など全く知らない瑛三郎は、わしの独り言におかしな物でも食べたのか?みたいな目をしておるが無視してプレイを続行する。
「くっ!なかなかやるではないか、お主」
弱点を付いているにもかかわらず、元々アクションゲームが得意でないわしは苦戦を強いられていた。
しかも、攻撃が中るたびに床が抜けていくという意味不明なフィールド。
「あっ!しもうたっ!」
というわけで、ゲームをリセットした。
まぁ、巻き戻し機能を使っても良いのじゃが、このゲームは誰でも解けるもの、を発売当時コンセプトに押し出していたゲームであるので、そんなものに巻き戻し機能を使うというのは流石にプライドが許さなかった。
「とりあえず休憩にしようかの」
ぷてちを取りに行こうと、よっこらせっと立とうとしたのだが、いつの間にかホカホカの紅茶とクッキーが目の前のテーブルに置かれていた。
「お主が淹れたのかや?」
「そうだが、どうした?」
おかしい。
先程まで、わしの横で覗き見ておったというのに、いつの間に淹れたんじゃろう。
「いや、お前が死亡フラグを立てるようなセリフ吐いてたから、こりゃ駄目だな、と思ってな」
「プレイに夢中になっている間に取りに行っていた」
「…あぁ…さっきのわしを見るまなざしは、そういう意味じゃったのか」
「まぁ良いわ」
そう言うと、わしはイチゴジャムが上に乗っかっているクッキーを口に入れた。
「にゃかにゃかに美味いの」
「そうか」
ぶっきらぼうに瑛三郎は言うが、わしには分かる。
こやつ内心では喜んでおる、と。
ということは、これもこやつが作ったものか。
相変わらず、料理は…というか、料理も得意な奴じゃ。
「知識だけのニーニャ様とはえらい違いですね」
テーブルの中央で同じくクッキーを食べているリョク姉が言う。
一言余計じゃ。
「それにしても、さっきの死亡フラグ的な言葉は何なんですかぁ?」
「瑛三郎も同じこと言うておったが、何の事じゃ?」
「”もう恐れるものは何もない”のくだりですよ」
「あぁ…銀の装備の事かや?」
「だな。なんで最強の装備からわざわざ変更したんだ?」
瑛三郎は足と腕を組み優雅にソファにもたれながら、首だけこちらに向けて言う。
「あれはじゃな。銀の装備でなければ奴にダメージを与えられんからじゃ」
「ほぅ」
「へぇ、そうだったんですね」
「うむ。じゃが、この任●堂スイッチに移植されたPC-88◯1mkIISR版の元祖Y●ではの、ヒントが序盤でしか出て来んでの」
「その事をすっかりと忘れたプレイヤーが勝てない、勝てないと攻略方法が分からず悩む事態が発生したのじゃ」
「ネットで調べたらいいんじゃないのか?」
「瑛三郎、良いところに目を付けたな」
「わしも父様に聞いた話じゃから実際に見たわけではないんじゃが、当時はそんなものはまだ無かったんじゃ」
「らしいですねぇ」
「そうなのか…俺達は恵まれた時代に生まれてるんだな」
「ま、そういう時代じゃったらしい上に、当時は個人でパソコンを持つなんて時代でも無くての」
「近くに同じゲームをしてる仲間すらおらんかったらしい」
「じゃあ、自力で何とかしないとお手上げだな」
「まぁ、そこはゲーム雑誌というのがあっての」
「あ、それなら、私データ持ってますよ」
リョク姉はそう言うと、指をデコピンするような仕草をした。
するとわしらの目の前に巨大なスクリーンが映し出された。
「…なんだ、この卑猥な絵は」
映し出されたのは、うっふーん、なドットで描かれた絵じゃった。
「絶対ワザとじゃな」
「まぁ、こんな感じの本が普通に売られていたようですね」
「”袋とじ”…っていうお楽しみになっていたりとか」
リョク姉はどこから出したのか、指示棒を手に無駄な知識をひけらかした。
「ともかく、話は戻してじゃな」
「そういうわけで、この元祖は少々不親切での」
「じゃから、後から出た移植の中には”どうせ◯の装備なしには勝てんのだ”とラスボス自らが自白したりすることもあったそうじゃ」
「それはそれで台無しだな」
「うむ。まあ、ともかく、今日こそはクリアするぞ」
こうしてわしは、3日後にようやくエンディングを迎えたのであった。
なお、瑛三郎もしたいというのでやらせてみたら1回でクリアしおった。
本当に万能な奴じゃ。
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