第27話 冒険者に復帰した(働くとは言ってない)
23話における、あの一件以来、ギルド本部から冒険者として復帰しろしろというメールが届くようになった。
「そういうメタな発言は止めておかないと、ただでさえ少ないユーザーが離れて行くぞ」
「いや、お主もしておるではないか」
そんなわしらのやり取りを、ニコニコしながらリンとキャリーが見守っている。
だから、そういうのではない。
「まぁ、それは置いておいてだな」
「実際、面倒なことになったわい」
腕を組みながら、椅子にもたれかかって、わしは言った。
「あぁ、確かにな」
「復帰しようものなら、また、俺たちがお前のために働かされるのかと思ったらな」
わしと同じような格好をして、瑛三郎は言う。
「いちいち、突っかかって来る奴じゃのぅ」
「うるさい。それよりも、お前の本音を聞かせて貰おうか」
「そんなもん決まっておろう」
「働きとうない」
「だと、思った」
「じゃが、これを断ったとあれば、恐らく近いうちに母様の下にも報告が行くじゃろう」
「それが怖い」
「というか、お前のとこの淫乱妖精が既に報告する準備をしてるぞ」
瑛三郎の言葉に後ろを振り返ると、自分専用の小さなスマホを手にしたリョク姉がこちらを見ながらうずうずして、その時を待っておった。
冒険者復帰を断って母様に怒られるか、復帰して依頼をこなしていくか。
「ん?ちょっと待て」
「どうした?」
そもそも、この魔王城を攻略する原因は、わしが家に引きこもっていたことじゃ。
となると、ギルドの要請を断ったところで、母様から怒られる上に無理難題を突き付けられるに決まっておる。
つまり、どっちにしても今の生活は無理だということじゃ。
「よし、ギルドに行くぞ」
わしの発言が予想外だったのか、皆驚いておった。
というわけで、現在、街へ向かって馬車の中である。
「それにしても、お前がやる気になるとはなぁ」
頭の後ろで手を組んだ瑛三郎は、そう言った。
「ですよねぇ。もう、マスターにチクる気満々だったのに」
と、リョク姉が瑛三郎の頭の上に座って、残念そうに言う。
「もし、復帰されるなら私も微力ながら頑張ります」
そう言ったのは、ふんす、と鼻息をちょっと鳴らしながらガッツポーズをしたキャリー。
ほんま、ええ子じゃあ。
「まぁ、再開してすぐにでも、こいつがいかに駄目なやつで尊敬に値しないことに気付くことになると思いますが、出来ればその後も残っていただけると助かります」
「ちょっ!お前、そんなことを思っているのか?」
「いや、態度見れば分かるだろ、普通」
そんな、わしらのやり取りに、御者を含めた他の皆は笑っていた。
いや、笑い事じゃないんじゃが。
そして、街へ到着しギルドへ直行した。
入って直ぐのところに窓口があるので、わしらが入ると直ぐに声がかかった。
「あ、ニーニア様」
そう言って、あふれんばかりの笑顔を向けて来たのは、わしらが魔王討伐直前くらいに新規採用でギルドに入って来たアリシアだった。
「瑛三郎様に麟様…あれ?貴方はもしかして女優をされていたキャリー様ですか!?」
キャリーは、困惑した表情で両手を左右に小刻みに振る。
その意図に気付いたのか、アリシアはしまったと言わんばかりに手を口にあてた。
何故なら、ギルドには他にも冒険者が居ったからだ。
とはいえ、他の冒険者は皆、併設されている酒場でワイワイ騒いでおったので、そもそもわしらにすら気付いておらなかった。
わしは窓口まで行くと、アリシアの耳元で囁きながら、口を開いた。
「わしが何をしに来たのか、分かるかや?」
「一応、ギルド本部から連絡がありましたので」
「ということは、復帰されるんですか?」
「まぁ、その辺の話をしようと思ってな」
「ギルド長は居るかや?」
「はい、居られますよ」
「少々お待ちください」
そう言って、アリシアは小走りに奥の部屋へと消えて行った。
奥に消えてから、間もなくギルド長は姿を見せて、小走りでこちらに向かってきた。
いや、そんなに期待されても困る。
「ニーニア様、ご機嫌麗しゅう…」
「あ、いや、そんな堅苦しい挨拶はどうでも良い」
「これは、失礼いたしました。では、こちらへ」
ギルド長は酒場とは真逆にある応接室を差して、そう言った。
そして、応接室。
「アリシアから聞いた時には、まさかと思いましたよ」
そう言って、ギルド長は、はっはっは、と笑う。
あ、そうそう、ギルド長はアリシアの父親じゃ。
この街のギルドだけは特殊で、母様の古い友人の一人
だった、というのは、当然ながら既に故人じゃからじゃ。
ちなみに、わしの口癖は生前わしを可愛がってくれておったロリーナさんの影響を受けておる。
で、話は戻る。
「それで、ニーニア様、冒険者に復帰されるという事でよろしいのですな?」
ギルド長は、両手でテーブルを押さえて支えにしながら、身を乗り出して顔を近づけて来た。
「顔が近い近い!」
「これは失礼」
ほっほっほ、とギルド長は普通に座り直す。
「では、改めまして」
「ニーニア様、冒険者に復帰されるという事でよろしいのですな?」
「それの相談で来たのじゃ」
「ほほぅ。それは、どのような相談でしょうか」
「うむ。冒険者として復帰はするが、依頼をこなさなくても良いかや?」
周囲を見渡すと、瑛三郎は眉間にしわを寄せてその部分に中指を付けて唸っており、麟とキャリーは眉を八の字にして目を閉じて何とも言えない表情をしておった。
そして、リョク姉はポケットからスマホを取り出して電話をしようとしているところで、わしと目が合った。
「ちょっ!リョク姉ぇ、後生じゃ」
「えー…だって、マスターから言われてますしねぇ…」
「な…なん…じゃと!」
まぁ、知っとったけど。
ギルド長の方を見ると困ったような顔をしておるし、その後ろで立っているアリシアも困惑した表情をしておった。
「ニーニャ…」
「なんじゃ」
「とりあえず、アリシアさんも座って貰ったらどうだ?」
「そっちかい!」
「まぁ、そうじゃの。アリシア、お主も座ればええ」
アリシアはギルド長の方を見て、首を縦に振るのを確認したのち、キャリーの隣に座った。
「ギルド長の隣に座れば良いのに」
「あ、いえ。私は今はただの従業員ですので」
ギルド長も首を縦に振り、今はあくまで仕事中であることを暗に言った。
「ふむ、それなら仕方ないか」
「で、話は戻ってじゃな」
「冒険者として復帰…」
と、同じことを言おうとしたところで、瑛三郎に止められた。
「どうせ、お前は働かないんだから1週間に1依頼くらいはするって言えよ」
「それもそうじゃな」
「では10日に1依頼をこなす、ということで良いかや?」
「微妙に増やしやがった…」
ここまで無言を貫いていたギルド長は、わしと目を合わせて口を開いた。
「3日に1依頼はどうでしょう?」
「それ現役世代並みではないか!」
「9日に1依頼!」
「4日に1依頼で」
「8日に1依頼!」
「5日に1依頼で」
「7日に1依頼!」
「では、それで行きましょう」
ギルド長は、そう言って手をポンと叩いた。
「はっ!しまった!」
瑛三郎案が採用されてしまった。
「お前、やっぱアホだな」
白い歯を見せながら笑顔で、瑛三郎はそう言った。
「くそう…わしの悠々自適の生活がぁ…」
「どうせ、お前は働かないんだから、ピクニックにでも行くと思っておけばいいじゃねーか」
こうして、ギルド長が差し出してきた冒険者復職申請書に泣く泣く記入したのだった。
勿論、瑛三郎と麟も記入したのは言うまでもない。
なお、キャリーは元々現役であったので関係なかった。
というか、配達員も冒険者扱いじゃったのか。
全ての書類を見終わったギルド長は、それをアリシアに渡し、アリシアはそれを分厚いバインダーに仕舞い込んだ。
「まぁ、それは冗談としてですな」
「冗談だったんかい」
「はっはっは、勿論ですよ」
「今更、いち冒険者がこなすような依頼をして貰おうとは露ほどにも思っておりません」
「ただ、私どもは安心が欲しいのです」
「この街や周辺に何か良からぬことが起きた時のために」
ギルド長は真剣な顔をしながら、そう言った。
「そんなこと、復帰してなくても協力するがの」
「勿論、ニーニア様方の事は信頼しております」
「ただ、このギルドに所属している、というだけで安心する者も居てるのです」
「ふむ」
「まぁ、出来れば、上級クラスの依頼はこなして頂けると助かりますがな」
「ほっほっほ」
本当に食えぬ奴じゃ。
というわけで、わしらは冒険者として復帰したのだった。
まぁ、わしは働く気はないがの。
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