第32話 和国の来訪者

それは、ある日突如としてやってきた。

わしは、相変わらずソファに寝そべって、ぷてちをもっしゃもっしゃと食べながら、最近発売された携帯ハードの満天童SDでウィザルドという3DダンジョンRPGをプレイしていた。


「ニーニャ様ぁ、こっちに向かってやって来られる方がおられますよぉ」


「んー?」


わしは、窓側まで行ってリョク姉の指差すところを見てみた。


「なんか、土煙が馬ではなさそうじゃの」


「あれは大兎だな」


何処からともなく現れた瑛三郎が言う。


「相変わらず神出鬼没じゃの」


「いや、さっきからずっと隣で座っていたんだがな」


そう言えば、寝転がるのにちょうどいい枕があると思っておったが、こやつの大腿部じゃったのか。


「どうしたんですか?」


そう言って現れたのは、わしらに飲み物をとりに行ってくれていた麟とキャリーだった。


「いやの、こちらに向かって大兎がやって来とるらしい」


わしの、その言葉を聞いてキャリーは、自身の持ってきたお盆をテーブルの上に乗せると一目散に外へと駆けだした。


「わしらも行くぞ」


そう言って、キャリーに続いて外へと足を運んだ。

外に出ると、既に大兎は城まで来て止まっており、キャリーが御者と何やら話をしていたので近づいて行くと、キャリーは、いつもとは違うイントネーションで話しかけていた。


「おばあちゃん、来るなら来る言うてメールくれたら迎えに行ったのに」


「あんたこそ、女優辞める言うてたから帰ってくるの待っとったのに、いつまでたっても帰って来んから、あんたの家に直接迎えに行ったらもぬけの殻やん?」

「管理人さんに訊いても分からん言うから、電話で本家の姫に頼んで調べてもろうたんやで」

「旧魔王城におるいうんなら、前もって言うとかなあかんやん」

「電話代360エルも無駄にしてもうたやん」


「それは、まぁ、色々あってやな…」

「あ、ニーニアさん」


「ニーニア…」


会話からキャリーの祖母と思わしき人物は、わしの名前を口にして視線を向けて来た。


「貴方様が魔王を打ち滅ぼしたという、かの聖女ニーニア・シニェーシュナ・オーディンスヴェトゥワ様で御座いますか?」


「え?あぁ…うむ、そうじゃ」


「おぉっ!久遠くおん賢姫けんきと謳われる方に、生きている間にお目に掛れるとは、私は本当に幸せ者です」

「ということは、そちらのお二人は…上総かずさ大鯨たいげいと謳われる須藤瑛三郎すどうえいさぶろう様に、越前えちぜん麒麟児きりんじと謳われる加賀間麟かがまりん様で御座いますか」

「そちらは…可愛らしい妖精さんで御座いますね。もしや、魔王討伐の際に聖女様をお導きされたとか?」


これに対する、それぞれの三人の反応は。


「は…はい…」


「そうですね…その様に呼ばれているのは存じております…」


二人も、わしと同様に戸惑いながら答える。


「いやぁ、やっぱり、分かっちゃいますかねぇ。この身から放つオーラというものが」


リョク姉は、二人とは対照的に答えた。

ちなみに、リョク姉は魔王討伐に参加していない。


「おおっ!やはり、そうで御座いましたか」

「申し遅れました。私は、この宇佐霧乃の祖母にあたります宇佐詩子うさうたこと申します」

「以後お見知りおきいただければ、恐悦至極に存じます」


「う…うむ。遠路はるばるご足労であったじゃろう」

「続きは、わしの城の中でどうじゃろう」


「何のいう勿体ないお言葉。喜びに打ち震えております」


「そ…そうかの。まぁ、なんじゃ」

「あまり堅苦しい話し方は、わしも好きではないでの」

「出来れば、普通に話をしてほしいのじゃが」


「ニーニア様が、そうおっしゃるのであれば」


「では、案内いたします」


キャリーと麟、リョク姉の案内で、彼女を城の中に迎え入れたのであったのだが…。


「おい、いつまで笑っておるんじゃ」


「いや、だって可笑しいだろ」

「" 魔王を打ち滅ぼした聖女 " とか " 久遠の賢姫 "とか、さっきまで居間のソファで寝転がってぷてち食いながらゲームしてるやつと同一人とは思えなくてな」


「別にわしが言うたわけではないわ。勝手にそう呼ばれるようになっただけじゃ」

「ほれ、もう3人とも城の中に入ってしもうたわ」

「わしらも行くぞ、" 上総の大鯨 " 殿」


「おい、その呼び方は止めろ」


「じゃあ、わしのも言うのを止めよ」


こうして、わしらも、遅れて城の中に入って行ったのであった。

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