第31話 月見

目覚めたのは見覚えのある馬車の中で、辺りは誰もおらずシーンと静まり返っていた。


「目覚めましたか、ニーニャ様…」


「おおっ!リョク姉。何故わしは馬車の中に居るんじゃ?」


「ニーニャ様、驚かずに聞いて下さい」

「実はですね、あれからニーニャ様は300年の眠りに就いてしまっていたのです」


「なっ!なんじゃとっ!?」

「マジかや?」


「マジです」

「その間に、瑛三郎さんや、麟さん、キャリーさんは…うっ…うぅっ…」


リョク姉は両手で顔を隠し悲しむ。


「ニーニャ様を目覚めさせるべく、長きにわたって旅を続け…しかし、年には勝てず皆さん…うぅっ…」


「な…なんという事じゃ…そんなことが…」


「やっと目が覚めたか…」


「ん?その声は…」


後ろを振り返ると、そこには呆れたような顔をしながらススキを手に持つ瑛三郎が居た。


「お主、寄る年波に勝てず、老衰で死んだのではなかったのかや?」


「何を言ってるんだお前は。夢でも見てたのか?」


リョク姉の方を振り返って見ると、明後日の方向を見ながら口笛を吹いていた。


「まんまと騙された…」


そして、馬車で戻る途中。


「それにしても、よく寝てましたねぇ」


何事も無かったかのように、リョク姉はそう言った。


「わしは何時間寝とったんじゃ?」


「えっと、馬車の中だけですと、6時間くらいですかね」


キャリーは、そう答えた。


「わし、寝室で寝たと思うんじゃが、キャリー殿が運んでくれたのかや?」


「いえ、瑛三郎さんが寝室から直接お姫様抱っこで運ばれましたよ」

「私だと流石に背負わないと無理で、起こしてしまいそうでしたので」


瑛三郎の方を見ると、素知らぬ顔で御者の麟と同じ方向を向いて外を見て居った。

その隣で、瑛三郎の頬を指でつんつんしているリョク姉の姿もあった。


「なんじゃ、起こせばよかったのに」


「起こしたところで、お前は働かんとか言いそうだからな」


と、瑛三郎はさっきと同じように外を見たまま言った。

全く、手伝えとか言っておったのに、この言いよう。

ふん、全く…くぅ…。

そして、目が覚めたのは周りが暗くなった自分の寝室だった。


「ん…もう夜か…」

「おおっ!そうじゃ、月見があるんじゃった」


わしはベッドから起き上がろうとしたところで、ふと窓の方を見ると外を見るリョク姉が居た。


「リョク姉、どうしたんじゃ?月見に屋上に行くぞ」


「ニーニャ様…ようやく起きられたんですね」


「ん?まぁの。それより月見じゃ」


「ニーニャ様、落ち着いて聞いて下さい」

「実はですね…」


「あれから300年経ったとか言うんじゃろ?もう騙されんぞ」


「いえ、あれから1000年経っているんですよ」


「なっ!なんじゃとっ!?」

「それはマジかや!?」


「マジです。大マジです」


「な、何という事じゃ…という事は、瑛三郎達は…」


「残念ながら…うぅっ…」


次の瞬間、バンという音と共にドアが開き、パァと周りが明るくなった。


「そろそろ起きろ、ニーニャ」


「瑛三郎、お主生きておったのかや?」


「何を言っているんだお前は。寝ぼけているのか?」


「はっ!?」


リョク姉の方を見ると、舌を出してテヘペロをしておった。


そして、屋上。


「いやぁ、まさか二回も騙せるとは思っていませんでしたよぉ」


わし以外が作った特製月見団子を頬張りながら、リョク姉はそう言った。


「全く、相変わらずリョク姉はいたずら好きで困るわい」


そう言いながら、月見団子を頬張り、その後お酒を飲む。


「おおっ!この酒めっちゃ美味いな。なんじゃこれは」


「それは、私の故郷のお酒です。この時のために取り寄せていたんですよ」

「喜んでいただけて何よりです」


と、キャリーは言った。


「確かに、これは美味いな。噂では聞いていた酒だが、これほどとはな」


「そうですね。こんなに美味しいお酒なら、現地で飲めばもっと美味しいはずですし、是非一度行ってみたいですね」


「そうだな、いつか行ってみたいな」


ハハハハ、瑛三郎と麟が既に出来上がっているのか、陽気に話していた。

なんか、死亡フラグみたいな感じになってるとツッコミたかったが、止めておいた。


そして、そんな和やかな雰囲気が深夜まで続いたのだった。

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