52:ギルドオオオ!
多分、何があったかを知らない人が見たら「ここは戦場か?」と言うと思う。それほどひどい状況になってしまっている。
「おらああっ――!」
「このっ――!」
「隙あ――!」
誰も彼もが女に殴りかかったりしている。それなのに言葉すら最後まで言えずに気絶していく。
例えば、殴りかかってくる相手の後ろへ瞬時に回り込み気絶させる侍とか。
相手の攻撃を全部避け、テレフォンパンチのような見た目で腹に食らわせ一発でKOするメイドとか。
魔術で作り出した椅子に座り、優雅に紅茶を飲み、可愛さに釣られてか近づく男たちがビリビリ痺れて白目を剥いてしまうようにしてる学者みたいな魔術師とか。
ちなみに俺は彼女らの方を見ていて、たまに襲ってくるやつらの気配を察知してノールックでぶん殴っている。死んではないはず!
「おー、終わったな。じゃあギルドに向かおうか」
「え、これどうにかしなくていいんですか?」
「……別にいいんじゃない? どうせ日常でしょ」
「そうですね……」
このボコボコにされちゃった人たちって本当にどうすればいいんだろう。役所にでもいって「これ倒しました~」なんて言うのかね? それともギルドに討伐の証拠みたいに提出するのかね?
ともかくよくわからないので放置で。さすがにこんな事態、我らがブレインたちも想定していなかったのだろう。申し訳ない。
「ここがギルドか。管轄も違うだろうし作り直しだよねぇ……」
さきほど俺が門番に対して「身分証はない」と言ったのはこのためだ。
同じギルドという名を冠してはいるものの、運営している団体が違う。ヒシズ王国では民営だったが、シトルイン王国では国営なのだそうだ。冒険者カードの仕組みや見た目も微妙に異なっていると聞いているので、作り直したほうが早そうだと考えたのだ。
「ごめんくださ~い」
「はいはーい! 新規登録ですか?」
「そうだ。この四人全員で頼む」
「承知いたしました。ではこの紙に名前や武術に関して、パーティーを組まれるのでしたらその名前もお書きください」
ここはそう変わっていないようだ。俺は安心してサラサラと必要事項を書いていく。
「では確認します。ネビュトスさん、アリアさん、ツァトリーさん、モミジさん、ですね。剣術と魔術が使えて、パーティー名はセイフですね」
「間違いない」
「了解です。では登録しますのでしばしお待ちを」
そう言って受付嬢は奥に引っ込んだ。
そのタイミングを狙ってか、部下と思しき人物を数人連れた男が話しかけてきた。
「なああんた。そこの女をよこせ」
「バカな事言ってないで、帰ってくれ」
「あ”? 俺がバカだって言いてぇのか!?」
「ボ、ボス……!」
「あぁそうだよ。雑魚でバカだよお前は」
「ボスを侮辱したな貴様ぁ!」
全く、愉快なやつらだな。ボスを諫めるのかと思いきや、いきなり味方をしだすのはさすがに笑えてしまう。とんでもないね。
「俺が、いや俺たちがお前らより強いのを見抜けない時点で、雑魚だ」
「……俺を怒らせちまったなぁ? 表出ろや」
ほぉ、面白い展開になってきた!
実はギルドの中にいた冒険者たちも、怯えた様子で少し距離を置き、遠くから観察している。
それはこの男が強いと認識されている証拠に他ならない。
こいつを正面から倒せば、俺がこの街で最強――とまではいかずとも、強者の部類であると分かってくれるはずだ。
「お待たせしました――って、なんでまた来たんだよゴミ筋肉……!」
ちょっと待て受付嬢。口悪すぎやしないか???
「おうおう誰がゴミ筋肉じゃ性悪女。弱いくせに調子乗ってんちゃうぞ」
「お前が勝手に負け判定にしただけじゃ! 負けとらんわ、ええ加減にせぇ!」
嘘だろおい。ここは関西かよ!
「表出ろや!」
「先にこのガキと勝負してからや! 決闘場使わせろ!」
「もちろんや! 少し待っとき、すぐに開けたるわ!」
優しいのか厳しいのか、それすら分からない会話だ。もはや感覚がおかしくなっていく気がする。どうしよう、まともな世界に戻れる気がしなくなってきた。
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