6日目:不死者の皇帝はヒシズ王国を滅ぼす

47:グッバイ宣言

  凄惨な事件――俺が主犯なわけだがな――から一夜明け、希望の朝日が昇ってきた。

 再び窓から見下ろせば、この家を除けば街は壊滅と言って良い状況だった。瓦礫がそこら中に散乱しており、原型を残したものはなかった。


 人の死因は不死者アンデットによるものだろう。だが建物はそれに伴う火災によってなくなったのだ。

 ちょうど夕飯時に近い時刻だったため火を扱っている家庭も多かったことだろう。それが火災の延焼を増幅させたのだと思う。


「この情景がヒシズ王国全体で展開されているんだなって……まぁ、まだ北部の方だけで南部は今日からなんだけどさ」

「あ、あれ……もう朝……」

「起きましたか。おはようございます」


 俺はこの朝に似つかわしい穏やかな笑顔で話しかけた。


「きっとあれは夢だったんだな……こんなにも晴れていて清々しいのにあんな事があるわけないんだ」

「すいません、現実です」

「うわあああああ!!!!」


 顔を覆ってもがき始めた父。ごめんって……あなたには悪いことしたくないんだよ俺。これはさっさと送る必要があるな。

 俺は再びツァトリーへつなぐ。


『今からそっちに三人送る。いいか?』

『いつでも問題ないよ。無休でやってるさ』


 これで許可も取れた。ゆっくりと始めるとしようか。


「あのー……今からあなたたちを安全なところに送りたいんですが、いいですかね?」

「主人がダメそうなので私が。もう生活もろくにできないでしょうし、ぜひお願いしたいです。娘も構わないと言っていました」

「了解です。では――転移テレポート


 未だにもがいている父親と、その手を握る母と娘。家族の絆を体現しているようでなんだか感動してくるな。母は強し。


「俺も次の場所へ移るか。っと、その前にやらないといけない事が」


 急用を思い出したので飛行フライで空へ飛び、街全体を見下ろせる場所までやってきた。


「この国全体を覆うように……封鎖結界ロックダウン


 他の国からの調査団や討伐隊などは絶対に通さない。情報は隠してこそ価値があるというものだ。勝ちを得るためには必要。


「次にやるべきは――」


 考え事をしながら飛行すること十分。気づけば国境付近に到達していた。近くには巨峰がそびえ立っており、まさに自然の要塞だ。


隕石メテオ


 これはいつの日か――数日前だけど――ツァトリーが使った魔術だ。


 その隕石はすぐにあの山々に直撃し道を完全に遮断した。まるで土石流が起こったように見える。まさか人為的なものだとは思うまい。これぞ自然の城壁ってな。


「次はゲーテに向かおう。恩返しと意趣返しへレッツゴー」


 国の端から端まで移動したためにかなりの時間を要したが、それでも一時間くらいのものだろう。あの街がまた見えてきたことに胸躍る。


 門など無視して街にそのまま入り、冒険者ギルドへ行く。


「冒険者さんたちどうも~」

「おい来たぞ! あいつだ!」


 どうやら俺の話をしていた真っ最中だったらしい。人気者みたいで照れるな~。


「ネビュトスだっけ。ちょっと来てもらえる?」


 下卑た笑みを浮かべて十人くらいの男たちがこちらへ寄ってくる。その中でリーダーのように見える男がギルドを出て誘導するかのように歩き始めた。俺たちはそれに追従していく。


 その男が止まった場所は路地裏だった。


「おいゴミ骸骨、勝手に支配とかしてんじゃねぇよ。雑魚がいこつのくせによぉ?」

「おいおいあいつ言っちまったぜ! こりゃ傑作だ!」


 愛国心から生まれた発言かと思ったがそんな事はないらしい。それに外野がガヤガヤうるさい。しかし志は同じなのだろう。皆武器に手をかけていつでも戦闘に入れるよう用意している。気色悪い事この上ない。


「あっ、そうですか。では死んで、どうぞ」


 そう告げれば影から配下――モミジが飛び出し瞬時に数人の首を刎ねる。


「嘘だろおいっ……!?」


 俺を侮辱した男は、そう言って反抗するも為す術もなく首を刎ねられてしまう。滑稽な死に様、滑稽な顔。こいつにはふさわしいなぁ?


「あの最強Aランク冒険者、ブミモゴさんが一瞬で……!?」


 呑気に驚いているくびも宙を舞った。

 一緒に地獄に堕ちろ。


 ――そうして数秒で路地裏は死屍累々へと変わり果てた。



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