48:末路の記し(とある不死者視点)
「誰だ、止まれ!」
「お、俺の村が骨に襲われて……命からがら逃げてきたんだよ……」
「そうか。見たところ犯罪者のようじゃないな。入って構わん」
「っ……」
助けてもらえなかった――そんな失望を隠しきれない表情で村へ入っていく旅人風の男。
「だ、誰か……助けてくれ……村が、襲われて――」
道ゆく人に聞こえる程度で声を出し、弱々しく手を伸ばす。しかし皆は冷たい視線を向けるのみで何も言わない。
「兄ちゃんどうしたんだ? 何があったんだ?」
大柄で筋骨隆々な男に話しかけられる。彼の背中には大きな戦斧があり、見るからに冒険者か傭兵であることが分かる。
「俺の村が骨に襲われて、命からがらここまで逃げてきたんだ……」
「そりゃあ大変だったな。俺の家に来い、歓迎してやる」
大男はにっと笑って手招きした。それと同時に周囲の人の視線は無視から哀れみへと変わった。
「あ、あの野郎は……」
「俺見たことあるぞ。すごかったな、あいつとんでもないことしやがる」
「そうなのか? 見たこと無いんだけど」
「好奇心で見るもんじゃないっての。離れた方がいい、死にたくなければな」
どう考えてもまともな雰囲気ではない。「死にたくなければな」なんて言葉が出てくるのは異常である証拠だ。
私は魔術を使い、皇帝陛下の側近であるお方へと合図を送信する。
「ここだ。荷物を下ろしてゆっくりしていってくれ」
案内され辿り着いたのは、路地裏を何回も曲がった先にある小さな小屋だった。まるで一人で住んでいるかのように振る舞っているが、数人の気配がする。
「ここに置けばいいですか?」
「そうだな。じゃあ――」
言葉を途中で止め、振り向きざまに壁に思いっきり押し付けられる。
「知ってる情報、全部吐いてもらうわ」
「……っ!」
普通の人であれば今ので肩を骨折し、激痛に言葉も出なくなっていることだろう。しかし私は上級
「お前ら、さっさと拘束しろ」
物陰から現れた、部下と思われる男が数人。
彼らは慣れた手付きで拘束具を私に取り付けていく。全身が固定されるのにそう時間を要することはなかった。
「んじゃ、バッグの中を漁るか」
さきほど下ろした荷物を、乱暴に開き中身を見る大男。見ているだけで少し不快感を覚えてしまう。
「食料、食料、水、食料……お、これが財布か――って、金貨入ってるじゃねぇか!」
その言葉に財布の方を凝視する部下たち。しかし大男はやらないぞ、と言わんばかりに睨み返す。
「もう我慢ならない、お前ら、やるぞ!」
「仕方ないなぁ」
「金貨よこせぇ!」
突然仲間割れを始めた。三人は少し広がり、包囲するような形で戦闘態勢になる。
……やはり人間は愚かだ。皇帝陛下がいかに素晴らしいお方なのかを説明してあげたいところだが、どうせ聞く耳を持たないだろう。
「俺も容赦しねぇぞ! オラァ!」
「ぐはあっ!」
大男の殴り一発でふっとばされ、意識を失う部下A。
「大丈夫か――!?」
「よそ見する暇はあるのか!」
「ぐおあああ!」
部下Aの方を見た、その横顔にもう一発。ゴキゴキ、と鈍い音がした。骨が数本折れたことは確定だろう。
「隙あり!」
後ろに周っていた部下Cが、手に持ったナイフで大男の首を刺す。それは深くは刺さらなかったものの、先の部分は埋まっている。
「こ、んなもので俺を殺せるとでもっ!!!」
痛みを怒りに変え、思いっきり部下Cを殴りつける。その勢いのまま頭を地面に打ち付け、血しぶきが舞う。
「ちっ、こんな――おもちゃをよくも」
一人を仕留めたことで余裕が生まれたようだ。大男の首に刺さったままのナイフを抜き捨てる。
「はぁ、はぁ……雑魚どもが。俺が何人殺してきたと思ってんだよ」
殴り飛ばして放置していた二人も、同じようにトマトになって息絶えた。
「さて、あとはお前だけだな。これで話す気になっただろう?」
「中々に洒落たジョークですね」
「なにを言って――!?」
一瞬だけ幽体へと変化し、拘束をすり抜ける。
……どうやら低次元の世界では到底現実的でない光景に目を丸くして驚いているようだ。
「お、お前は何者だ!?」
「名乗るほどでもない。お前は我らが皇帝陛下の手足となるのだ」
恐れを隠さない大男へ歩み寄る。一歩後退りする。歩く。下がる。歩く。下がる。後ろへ転移し、首の傷へ牙を突き立てる。
「がっ……!?」
「私は上級
◇
「きゃあああ!」
「どうして、こんなことっ――!」
「やめで、ぐれ、ああああ!」
そこはヒシズ王国のとある街。のどかで平和。どこにでもあるような、そんな街。
しかし、今はのどかなどではなく、平和とは遠くかけ離れている。
辺りは血と肉が散乱し、笑顔など消え失せ、家は燃え盛り、人々は逃げ惑う。
その全ては襲い来る無数の
「もう、やめてくれ――」
マフィアが路地裏で行うだろう悲惨な光景も、今では堂々と町中で行われ、珍しい光景などではない。
その原因は、やはり「試験に不合格」であったからだ。
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