22:神薙の精神とは

 談笑しながら歩き続け、辿り着いたのはこれまた頑丈そうな鉄の扉。もはや鉄ではなく鋼鉄か、それ以上の硬さなのではないかとすら思える。


 そして先程の――人工知能搭載型というべきだろうか――扉は片手で開けるものだったのに対し、こちらは両手で開ける観音開きのものだ。


「おぉ……いや、改めてすごいよな。城の地下にこんなものがあるだなんて」

「ネビュトス殿、その言葉は少しばかり早いでござるよ」


 モミジは、そう言うのと同時に扉を開いた。


 その先には――


「す、すごいです……こんなの見たことない!」

「ん。これはさすがのボクでも知らない景色……!」

「もしや、どこかで聞いた古代技術ロストテックというものだったりするのだろうか!?」


 ――令和の人々が、一度は思い描くような近未来空間が広がっていた。


 メタリックな色調をベースに機械の発する光が散見される室内は、地下深くだと思えぬほど明るかった。直接的に光る照明がないことが、さらなる違和感をもたらしているのだろう。しかしそれがまた格好良い。


 その一方で驚いたのは、意見が別れがちな彼女らの言葉がここまで一致したことはないということ。 

 その中で俺が一つ気になるのはヴィルの言った古代技術ロストテックという単語だ。

 後で聞くことにしよう、そう思い心に留め置く。


「皆の衆。ここにはまた来ることになると思うでござる。拙者はネビュトス殿に話をするためここに参った。まずはそこにゆるりと座るでござるよ」


 モミジの意見はもっともだ。

 そう思った俺らは、素直に従いソファに腰掛ける。


「……そ、そんなに皆ネビュトス殿のことが好きなのでござるか」


 モミジが座った真向かいに座った俺を見て、迷うこと無くアリアは俺の右手に、ツァトリーは俺の左手に座った。

 それを見たヴィルは、困惑しながらもツァトリーの横に腰掛けた。


 そんな光景を見て俺は何とも言えぬ感情になる。皇帝として愛されるのは良いことだが、なんだかまた違った方向に進んでいるような気がしてならない。……気にしたら負け、だな。


「ま、まぁ……モミジ。話を始めてくれ……これ以上時間は潰せない」

「そうでござるな……」


 そう俺が言ったことにより、モミジはまた真剣な表情になった。


「では改めて話をするでござる。拙者の流派――神薙流についてでござるな。これは日本の言葉が理解出来ぬと中々意味が捉えづらいと思うでござる。ネビュトス殿、神薙という字から何を感じるでござるか?」

「そうだな、神薙……、といったところか?」

「正解でござる。これは――女神を弑逆しいぎゃくするための流派なのでござるよ」


 女神を……弑逆……!?


 それは先程の問いに答える際、一瞬よぎった考え。しかし、なぜか流してしまっていた思考。


 そしてなにより。それがモミジ――日本人の口から語られるのが一番不思議な話だ。


「んっ……!? モ、モミジ! どういうことだ! 説明してくれ!」

「妾からもお願いしたい!」

「お、お前ら……」


 大抵こういうときはアリアが何か言いそうなものだが、珍しくツァトリーとヴィルが声を荒らげている。


「貴殿らにも聞かせている以上、さすがに答えるでござるよ。これは開祖、逆羽サカバ雷電ライデン殿がこの地で大成した流派でござる。恐らく、この流派を学び、身につけた者は異邦なる者のみでござる」


 おいおい待てよ……それってってことじゃねぇか……!


 俺はただ呆然とし、愕然がくぜんとすることしか出来なかった。それは声を荒らげることすらも叶わぬほどの衝撃だったから。

 というか、次々と語られる爆弾発言を前にして平然といられる方がおかしいと思う。

 

 だがしかし多少考えたことがあるのもまた事実。

 転生直後には、俺以外にも転生者がいるのではないか、と。モミジと会ってからも、彼女以外にも転生者が……? と。


「開祖殿たちはこの地に、適当な理由をつけて放り込まれたのでござる。どうすべきかと悩んだ彼らは、女神からの依頼をこなすよう見せかけ、女神の首を獲る為様々なことをしていったのでござる。神薙流もその一環でござるな」


 そこまで言うと、彼女は「拙者も、ネビュトス殿も例に漏れず適当な理由で放り込まれてござるな」、と苦笑いで付け加えた。


「拙者は太刀を使う故、太刀術を教わったでござる。初伝、中伝、皆伝の全てを会得し、奥義までをも手にしたのは、数多の門下生の中では拙者だけでござるよ」


 そんな過去を淡々と語っている彼女だが、実際のところは誇らしげな雰囲気が漂ってきていた。心なしか顔がキリッとしているように見える。


「さて、お二方。これで良かったでござるか?」

「ん……問題ない。さっきはごめん」

「妾もその通りだ。すまない。そして説明感謝する」


 二人は軽く頭を下げて謝罪した。

 しかし空気が悪くなってしまったように思えた。


「まぁ、聞きたいことは聞けたんだろう? そろそろ夕方だ、立てた予定を基に会議を始めたいと思うのだがいいか?」


 その問いに対し、皆は了承の意を示した。

 そして俺は話を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る