6:欠陥魔物図鑑だろこれ

「作戦は……こんな感じかな」

「そうですね。草案としてはこれでいいと思います」


 数時間後、俺とアリア――アウレリアは呼びづらいだろうから、と家族に呼ばれていた愛称を教えてくれた――は城の執務室にいた。もちろんずっと会議していたので動いていない。

 傍から見れば豪華な黒い衣服を着て執務をこなす骸骨、それと銀髪美少女メイドにしか見えないだろう。


「もう外が暗いな……」


 疲れた様子で寂しく呟く。

 時計を見るとⅡ――つまりは午前2時を指している。


「うげっ、もうこんな時間か。まぁ、とりあえず今日のノルマは終わったかな……」


 結構悩んだりしたはずなのに不思議と疲れた感じはしない。

 肉体がないからなのだろう。骨の体も案外悪くないような気がしてきた。アリアも全然疲れた素振りがないのは骨でなくとも不死者アンデットだからなのだろう。


「さて、今日はもう寝ようか……って、骨だけど寝られるのか?」

「確かにそうですね。私も全然疲れてないですし、眠くもありません。私は人の身体にはなりましたが、この数日間の骨だった時となんら変わりありません」


 疲労を感じない身体、成長するか怪しい骨、無限の体力――果たして睡眠は必要なのだろうか。


 実際のところ精神的な疲労はあれど眠気はないしな。


「眠くなるまで俺は蔵書を読もうと思うんだが、アリアはどうする?」

「私は……そうですね。同じく蔵書を読ませていただきたいです。なんてたって私は陛下の専属講師ですからねっ」

「じゃあ、よろしくお願いしますよ、先生」

「からかわないでくださいよ、もう……!」


 さて、俺が蔵書を読む理由もとい理由は単純だ。悲しいことに。

 ――なんと知らない不死者アンデットは創造出来ないのだ。だからさっさと調べて知っておかないと、後の戦力の低下に直結する。


 俺はおもむろに立ち上がり、適当に魔物図鑑を手に取った。

 そしてパラパラとめくって不死者アンデットを探す。


「あった。低級不死者アンデット人型ひとがた種の腐肉人ゾンビ。低級の人型ひとがた種、骸骨人スケルトン……幽霊ゴースト……」


 低級の、しかも俺でも知ってるような超有名すぎるやつばっかだ。

 他の魔物図鑑を持ってきてはまたパラパラとめくっていく。


「これも低級、これも低級、あれもこれも低級……一体どうなってんだ?」

「あの、どうかされましたか?」

「アリア、この本って情報量少なかったりしないか?」

「いえ、そんな事はないと思いますが……。帝城大図書館にも入っている歴とした魔物図鑑ですよ」


 はぁ? これが歴とした魔物図鑑? 欠陥魔物図鑑の間違いじゃないのか?


「……ここに載ってる不死者アンデット、全部低級なんだけど」

「あれ、ご存知なかったんですか? この世界じゃ低級の不死者アンデットばかりで中級以上の不死者アンデットなんて数百年に一度しか出現しないんですよ? 図鑑に載らないのも仕方ないと思いますが」


 あのクソ女神め……! またしても俺を嵌めたな!?


「……俺は知ってる不死者アンデットしか生み出せないんだけど」

「えっ、そうなんですか? それってつまり……」

「あのクソ女神ぃ! 絶対許さん!」


 あぁどうするべきか……最悪だぁ……


「ここって図書館とか無いんですか? そこにもっといいのがあったりして。こんな場所なら世に出回ってない本などもあると思いますが」

「なるほど……! さすがアリア! 行ってくる!」

「あっちょっ! ……行っちゃった」


 アリアがなんか言ってた気もするがそんなの知らない。

 不死者の皇帝イモータルのポテンシャルを最大限に活かして図書館へ突き進む。

 松明はあるが薄暗い廊下も夜目が利くので問題ない。それに場所も覚えてる。


 数分もすれば大きな扉の前に辿り着いた。

 両手で押して開けるだろう扉も、軽く押せば開くことができた。


 そこからは急ぎ足で、走らないギリギリの速度で本の名前を確認していく。


 そして見つけた。「中級不死者大全」という本を。手を伸ばし取ろうとすると、もう1つの手が横から伸びてきて俺の手の上に重なった。


「あれ、アリアどうし――!?」


 その方向を見ると、そこにいたのはアリアではない別の不死者アンデット――幽霊ゴーストがいた。

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