5日目:不死者の皇帝はヒシズ王国を征服する

40:あれれ、おかしいぞ?

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 新作よろしくです!


 ◇

 それは長く遠い、危険に満ちた旅――などではない。


 普通に魔術使って、数十キロメートルの旅路を数十メートルにした。


「到着だ。ここがゲーテから北の街であるリビアナだ。行くぞ」


 俺たちは足早に門へと進む。


「止まれ。身分証を提示してもらおうか」

「ほいよ。俺たちは冒険者さ」


 自身に満ちた表情で冒険者カードを門番に見せつける。


「……はっ、Dランクごときか。そんなん身分証明になるかよ。おーいリブラさん。こいつどう思います?」


 舐め腐ったような態度の門番は、後ろの方を――恐らく詰所だろう――向いて誰かを呼んだ。


「はぁ……お前は人のこと舐めすぎなんだよ。もうちょっと真面目に――っておい! この方の事をお前知らんのか!?」

「え、知らないっすけど」


 そこで出てきたのは、少し老けた顔の壮年だった。


 ほう、さすがだな。全く……これだから若者は。やはり多少年齢が高い方が有能なのだ。俺が殺戮の黒蛇を倒した事を知っているなん――


「あのがこの方は『何よりも絶対に優先すべき人物』だと仰っていたじゃないか!」

「「……は?」」


 図らずとも、若者と俺の声は一致した。心の底からの疑問だっただろう。俺も全く意味がわかっていない。


「おい待て。ハクティノって、あの黒い女の事か!?」

「あぁ――じゃない。その通りでございます。ネビュトス皇帝陛下はこの街における最高権力者でございますが故、行く手を阻む者はおらず、逆らう者もいないでしょう。もしそのような者がいれば、すぐにでも処刑させて頂きます!」


 そう熱烈に演説するリブラの顔は、迫真を通り超して顔に血管が浮かび上がっていた。このまま続いていたら血管が破裂してしまいそうな勢いだった。ハクティノは一体何をしたんだよ……


「あ、あぁ。そうか。ありがとうな……?」

「感謝などもったいない……! ありがたきお言葉! ほら、お前も頭を下げないか!」

「す、すいませんでしたああああ!」


 先輩の豹変ぶりに、こいつも死にものぐるいで頭を下げた。もはや謝りたいのは俺もだよ?


「じゃ、じゃあ通って良いんだよな?」

「もちろんです! どうぞお通りください!」


 ……待てよ。俺は征服するためにここに来たはずだ。なのに入る必要があるのか?


「ネビュトス殿。ハクティノ殿がここにいれば色々聞くことができるのではないでござるか?」

「なるほど確かに。なら行ってみるか……ちょっと気乗りしないけど」


 ということで、この街で一番大きな建物へ向かうことにした。そこがどんな場所であろうと、「陛下にはここがお似合いです!」とか言うんだろうと思って。


「あーそこな門番さん。俺ネビュトスって名前なんだけど通してくれない?」

「た、大変恐縮ではございますが、冒険者カードを提示していただけますか?」

「どうぞ~」

「はっ、確認出来ました。どうぞお通りくださいませっ!」

「うむ。ご苦労」


 おかしいな。ほとんど何もしてないのに皇帝の扱いされてるよ。あいつ一日でどこまでやってるんだか……


「おーい! ハクティノはいるかー!」


 そこは大きな館。多分領主のだろう。そんな場所で叫ぼうものなら、それはもうよく響く。


「……すみません。大公閣下はここにはおりません」

「誰だ?」


 突然廊下から姿を現したのは一人のメイドであった。その顔からは恐れを感じ取ることができる。


「わ、私は伝言役を任されましたルーピアと申します。読み上げてもよろしいでしょうか?」

「もちろん」

「では……『偉大なる皇帝陛下、ご機嫌いかがでございますか? 愚生は現在、ヒシズ王国の各地を支配している最中でございます。陛下がこの言伝を聞いている頃には、王都にて職務を果たしていると思います。出来れば街をいくつか回って、陛下の来訪を喧伝して頂きたいです。来訪を今か今かと待っているでしょうから。よろしくお願い申し上げます』……だ、そうです」


 おいおい……あいつが考えたとは到底思えないほどのお硬い文章じゃないか。どうせあの不死者キルボネが考えたに違いない。


「分かった、ありがとう。俺は次の街へ行くことにするよ」

「はい! お越しいただきありがとうございました!」


 もう意味が分からない。何いってんだこいつ、とは少し思ってしまうね。

 

「とりあえず二人とも、いろんな街へ行って同じ事を繰り返すことになるっぽいんだけど……どうする?」

「することがないでござるから着いていくでござるよ」

「私も同じです」

「じゃあ決まりだな――」


 そして俺たちは、その場から消え去った。

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