19:その目に映るものは
「うぅ……負けちゃいました……」
アリアが涙を浮かべて俺を見上げる。その表情はさながら、高校最後の試合で負けてしまったときのよう……とは思ったものの、地べたに大の字で寝転がった状態なので感動とかが台無しだ。
「ぐすん……モミジさん強すぎますぅ……お手柔らかにって言いませんでしたっけ!?」
「い、いや……最初の方はかなり手加減していたのでござるが、接近戦になってからは思わず全力で戦ってしまったでござるよ」
「やっぱり全力じゃないですかぁ!」
「それにはちゃんとした理由があるのでござる。拙者が本気になるくらい、いやならなければいけなかったほど、アリア殿の目は異常だからでござる。普通の人はあんなに避けられないでござるよ」
ふくれっ面をしていたアリアだが、その言葉を聞いた途端に嬉しそうな顔をした。
「えっへん! やっぱり私って目が良いんですよねぇ! 人を見る目もあるし!」
「アリア殿、その……あれは目が良いだけじゃないと思うでござる。それはもはや面妖と言うべきか、尋常ならざる力によるものとしか思えぬのだが――」
「えへへ、そうですかぁ~? ありがとうございます~!」
「ア、アリア殿……?」
モミジの言葉からは、恐怖や疑問など決して良い印象を受けるようなものではなかった。
しかしアリアはそんなの気にせず、両頬に手を当て、目を閉じてトリップしていた。俺は心から呑気だと思うね。
「あー、モミジ。今のアリアには何を言ってもどうにもならんと思うぞ……。模擬戦も終わったんだからさっさと帰ろう。俺はアリアを運ぶ」
「わかったでござる……」
そうモミジが困惑したような表情で頷くと、地面に刺さったままだった刀を抜き、ゆっくり歩き始めた。
「アリアー? おんぶするけど文句はないな?」
「えへへぇ? は〜い」
許可はとった。うん。問題ないだろう。文句は受け付けないからな!
「よいしょっ、と」
慣れない手つきで肩に手を回し、身体をくっつけ、足を持ち上げる。
普通の男ならば多少なりともドキドキしてしまうのかもしれないが、骨の身体じゃそんなことにはなりません。残念。
「えへへ……ってあれ。ここは誰? 私はどこ?」
「アリア、目が覚めたか。気は確かじゃないな」
「陛下! ひどいです! 誰が頭おかしいって言いました!?」
「言ってない……事もないわ。ま、そんな元気なら自分で歩けるな?」
背負っているためアリアの顔は見えないが、見えずともどんな顔で言ってるかが想像できてしまうのが怖いところだ。
それに耳元で言われるとうるさく感じる。耳ないけど。
「へ? 自分で歩け……る? って陛下!? 何してるんですかぁ!?」
「耳元で騒ぐなって……だってお前に話しかけても何も反応しなかったもん……」
俺は少し子どものような態度でそっぽを向いた。
「すいませんでした……なので許してくださいっ……!」
その言葉と同時に、俺のローブに水が落ちたような感覚を覚えた。
一滴、二滴、三滴……と、それはどんどん増えていき、すぐにその水は辺り一帯まで広がった。
「ちっ、雨か。面倒だしこのままいくぞ! しっかりつかまってろ!」
「えぇ!? わ、わかりましたぁ!」
アリアは先程よりもしっかりと身体を密着させた。
別に風邪を引くわけではないが、服は濡れてしまうからな。雨は避けるべきだろう。
「ほっ……ほっ……ほっ……」
走り始めた俺の横で、奇妙な動きをしながらついてくる変人――じゃなく、侍がいた。
「モミジ? 一体何をしてるんだ?」
「ほっ……これくらいの雨ならっ……避けられるとっ……思って……」
そんな意味の分からないことを言っているモミジは、どうやらかなり集中しているようで話が途中で切れてしまった。
「雨を避けるぅ……? まぁ、あんな戦闘ができるならそれくらいできる……のかな」
もはやここは俺一人で自己解決するしかあるまい。
だってそれくらい意味不明だもん。
そんなモミジと並走し数十分。ついに城の門へと辿り着いた。
そこには2人の人影があった。
「ん。おかえり、ネビュトス」
「雨に濡れただろう。さぁ、早く入るといい」
それはこちらを少し案ずるような表情のヴィルと、なにより健気な顔をして出迎えてくれたツァトリーだった。
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