53:俺は観戦でした
スタスタとガニ股で歩く受付嬢に、胸を張って威嚇するように歩く男、それについていく部下。そしてその後ろについていく俺たち一行。何をしているのかだんだんわかんなくなってきた。
「ここや。ほら、入りいや。セイフとか言ったか。こいつらの首持って来ればランク上げたるで!」
「冗談は程々にしとけ性悪女。俺の首なんて誰が取れるんや! 舐めるのもいい加減にせぇ!」
「え、俺がいけばすぐ取れるけど」
「ならお前は最後や! そこの女たちを俺のモンにしてからお前をじっくり痛めつけて殺したる! まずは……そこのメイド。こっちこいや」
世界観は独特だが、ヒシズ王国を思い出すとこんなにスムーズな話し合いなどしていなかったような気がする。
あの匿ってくれた家族とリムニル、あとは……領主のおっさんくらいなもので、他は脳筋にすらなれないほどに脳みそが詰まっていないやつばっかりだったと思う。その分だけ楽でいいよ。
「え、わ、私ですかぁ!? そんなぁ……」
「弱音を吐いたって無駄やぞ。そこのガキに文句言えや」
「アリア。大丈夫、アリアなら勝てるからさ。自慢の目を活かして頑張ってきな」
「はいっ――!」
励ましたことで勇気が出たのだろう。あの男の見下すような言葉をガン無視して円形のステージへと両者が登っていく。
「ルールは自由。殺すのも自由。ま、俺はお前で遊びたいから殺しはしないけどな」
「じゃあ私はあなたで今遊びますよ。無様に踊って死んでください」
アリア、目がマジになっている。煽られたことが癪に障ったのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。
「おらぁ!」
それに対してキレてしまった男は右腕を振り抜き重いパンチをく割らせようとする。しかしアリアは足を動かすだけで回避してしまった。逆にカウンターで腹へと一発お見舞いする。
「ぐふっ……まだまだぁ!」
右腕、左腕のどちらも使い、ストレート、フック、アッパーと様々な方向から攻撃する男。アリアは必要最低限の動きで、ゆっくりと後退しながら避けていった。次第に男の顔が赤く染まっていくのが分かる。血管も浮き出てきた。
「バーカ」
アリアが小声でそう呟いたのが聞こえた。それと同時に、男がバランスを崩し転んでしまった。アリアの足を見れば、男の足元へと移動しているのが見えた。どうやら足をすくったようだ。
「コケにしやがってぇ!」
さらに逆上する男。顔の赤さは限界を超え、血管もとんでもないことになっている。放置するだけで勝手に死んでしまいそうなほどに危なそうな見た目だ。
「あがっ、このっ、うおっ……!!!」
倒れたままの男は、なんとか立ち上がろうとするも、腕を立てたり足を動かさせば即座に蹴られ、地面を這いつくばって抵抗するしかない状況になっている。
「いけー! 殺しちまえそんなアホンダラ!」
あの男の部下も含め、全員がこの闘技場の観客席にいる。あの受付嬢はあの優しかった面影をかなぐり捨てるかのようにアリアを応援してくれている。ありがとう。
「ボス……!」
「なんてことしやがるんだよあいつ!」
その一方、部下たちはボスがボコボコにされている様を見て腹を立てているらしい。これ、怒って俺たちの方を攻撃してきそうな予感がする。警戒しておかないとな。
「じゃあ、そろそろ本気で戦いますね」
そう言葉を置き去りにして消えたアリア。
俺は感覚的に上を見ると、そこにはアリアがいた。それと同時に衝撃波がこちらを襲う。
今、彼女はとんでもない速度で地面を蹴って空中へと飛んだのだ。
そして最大到達点に達すると、すぐにまた消えた。
次はステージの上を見ると、ボスの真上にいる姿が見えた。その直後、土埃と衝撃波が同時に吹き荒れる。
「なんだこれ!」
「きゃあ!」
「目を閉じておいてよかったでござる……」
「ボクも同じだよ」
「俺はまず目がないのでセーフ」
「うわなにそれずるい!」
意味の分からない事態に困惑する部下に、今更ながら可愛い声を上げる受付嬢。それとジョークを言う俺とツァトリーとモミジ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます