54:俺が強者やで

 土埃が晴れ、やっとその場の状態を確認できるようになった。

 そこにあった光景は――


「ボスううう!!」

「よっしゃああ!!!」

「さすがアリア殿でござるな……」

「ボクが相手よりかはきっと楽な死に方だろうね」


 先程の落下攻撃でボスの胴体に大きな穴が空いている。それどころかもはや胴体がない。そこに残されていたのは虚ろな目の生首だけであった。


「首を持って来い、のくだりを覚えていたのかな。よくもまぁ調整できたもんだよ……」


 正確な狙いに思わず感心してしまう。空気抵抗なども考えれば、必ずしも垂直に飛んで垂直に落ちるなんてことは難しいだろう。そんな難しい技を成功させたアリアはやはり武術の才能があると確信を深める。


「やりましたよっ、陛下!」


 可愛く微笑みながらピースをしている。なんだかとても癒やされてしまうな。……汚いおっさんの首がなければ、だけどね。


「よく頑張った。お疲れ様」

「えへへっ。そうそう、なんか戦ってたら目がすごくよく見えるようになったおかげで楽々でした!」

「目がすごく良く……?」

「アリア、それ一回ボクに使ってみて」


 なにやら真剣な表情なツァトリー。アリアは素直にコクリと頷き、それを使った様子を見せた。


「なんか、すごく色々見えます。例えば――」

「ストップ。検証出来たからそれ以上言わないで」

「……はい」


 何が見えたのだろう。俺にはさっぱりだが、発言から考えるに、何かの言葉が見えていて、それを言おうとしたのだと思う。内容については全く検討もつかないんだけどね。


「とにかく。アリアのそれは――鑑定眼だよ」


 とても驚いた。


 鑑定眼――ツァトリーから聞いてはいたがまさかアリアがそれを発現させるなんて。


「あ、これが鑑定眼なんですね。びっくりですっ……!」

「鑑定眼ってのはね。その者がもつ目を最大限まで使い、万物をも見通す力を持つんだよ。それだけで世界中の知識が手に入るも同然。魔術師でもそうじゃなくても喉から手が出るほど欲しがる存在なんだよ」

「分かりました、気をつけます!」

「素直でよろしい」


 ツァトリーの忠告からは本気である事が伝わってくるほどの気迫があった。真剣に教えてくれるのいも、真剣に聞くのも良いことだ。優しい世界。


「き、きき貴様ら! 貴様らのせいだ! かかれええ!」


 と、そこに割り込んでくる無粋な輩が数人。


「ツァトリー、よろしく」

「はいよ~。電磁領域エレクトロドメイン


 魔術一つではい終了。全員が感電したことで無力化することができた。


「いやぁ、皆さん強いんですね! これならランクはDからC、いやBでもいいでしょう!」

「本当か! それは素晴らしい!」


 口調が仕事モードに切り替わっていることについてはノーコメントでいい、よね? 触れるの怖いしそっとしておきます……


「では更新を頼む――あ、こいつらの処理はどうすれば?」

「それはきっと弱者たちが食料にするか金を奪いにくるので問題ないですよ。彼らにも勝てない弱者たちはそうやって生活しているのですから」

「そ、そうか。では戻るとしよう」


 ……そうか。そうだよな。これが常識、分かってはいる。だが強烈な違和感がある。

 だめだな、俺だって散々人を殺しているのに。弱者を殺しているのに。日本人の名残がここに来て自分を苦しめるとは思わなかった。


「では、少しお待ち下さいね」


 ギルドへ戻ると、そこには怯えていたはずの冒険者たちが俺たちの帰りを待っていたようだ。


「はい、これで更新は完了です。皆様ランクがBになっていますよ」

「うおおおお!!!」

「すげええ!」

「あいつらを倒して一瞬でBかぁ、いいなぁ……!」


 受付嬢がカードを渡してきた瞬間、歓声が大爆発した。

 きっと喜ぶタイミングが分からず、OKだという証拠がほしかったんだと思える。もし冒険者の資格剥奪、とかであれば喜べないのだから。


「ありがとうな! この街では俺が強者やあああ!!!!」

「「「うおおお!!!!」


 思いっきり拳を上げてそう叫べば、それに呼応するように再び大歓声が上がった。

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