55:王都へ

 それから一夜明け、俺たちはもう出発の準備を進めていた。

 どうしてそうなったか。それを説明すると少し長くなってしまう。


 ――あの後、俺たちは領主に会いに行った。そこでことの顛末を話すと、俺と決闘がしたいと領主自ら申し出てきた。俺としても征服という目的があるため、当然のように決闘する流れとなった。


「さぁ、かかってこい! ワシはお主の胸を借りる気持ちでいかせてもらおう!」


 そんな風にかっこつけたはいいものの、それに応えようとした俺は少し本気を出してしまったせいで領主の館ごと消滅させてしまった。すぐに魔術で修復・蘇生はしたものの、領主にはかなり怖がられることになってしまった。


 しかし、それを上回るほど面白いものも手に入った。

 その名を「御前試合申込承認証書」という。


 これがあれば、なんと国王と戦うことが出来るというのだ。いくら俺を怖がったとしても、「強者がルール」であるこの国の理念に従い、さらなる強者である国王の元へと俺を送ろうとしたわけだ。……国王に叩きのめしてもらおうとしているんじゃないか、なんて邪推をしたりもしたが、それは忘れることにした。


「ま、結局は快適な空の旅になるけどね!」

「あと王都までどれくらいですか?」

「ん、十分くらいだよ」

「遠くないですかぁ!? こんなに早い速度で飛んでいるのに……」


 国が三つしか無いからか、その領土はとても広い。北の方は寒いので誰も欲しがらない、そのためなおさら広いのだ。


「あ、あれが王都じゃないですか!?」

「本当だ。ちょっと予測よりも早いね」

「ボクはもうゆっくりしてたいかも。御前試合なんてどうせネビュトスがいけばすぐ、でしょ?」

「それもそうか。観覧席を用意してもらうことにするよ」

「ありがとっ」


 ここはさきほどの街よりも、さらに何倍も、何重もの城壁がある。空を飛んでいた際に見えた他の街と比べてもそうだ。ここは防衛設備や兵器もしっかり置いてあり、かなり厳重に作られていることが分かる。ここだけは絶対に守る、そんな意志を感じ取れるほどに。


 そしてまたしてもゆっくりと降下する。今度は門番を驚かせない位置に。


「誰だ。止まれ。身分証を見せろ」

「これでいいかな?」


 俺が提示したのは二つ。Bランクの冒険者カードと、御前試合申込承認証書だ。

 すると門番は目を丸くし、血相を変えて頭を下げた。


「そ、それは……! どうぞお通りください。国王陛下はきっと貴方と決闘を楽しまれることと思います。どうかご無事で」

「お勤めご苦労さま」


 正直驚いた。今までで一番いい対応だったからだ。やはり教育がしっかりと行き届いているんだな、と感じる。


 門が開き、王都へと一歩足を踏み出す。


「おぉ……!」


 ヒシズ王国の王都なんかよりもずっと広く、ずっと豪華だ。これでいて搾取をしていないのだからすごい。


「陛下、あれって……」


 アリアがこっそりと指をさしたのは、首に鉄の首輪を巻かれた「人」だった。衣服はあまり綺麗とは言えないものの、家の中には入っても問題ないくらいの見た目をしている。しかし身体中に生傷があり、過酷な環境に生きているのが分かる。


 そうだったな。搾取をしていない、なんてのは撤回しよう。彼らは無知からではなく弱者から搾取を行っていたのだった。


「王城は……あれかな?」

「あれ、城っていうより超巨大円形闘技場じゃないんですか?」

「ん、でも一応王城だよ」

「知ってます、知ってますけどね! 観光名物だって聞いたこともありますよ!」


 遠くからでも一発で分かるほどに大きい。でかい。今まで見た中で一番大きい建物かも知れない。


「あそこに国王がいるわけだな? この国で最も強い者……楽しみだ」


 賢さも持つ、ということは今まで見てきたヤクザまがいの奴らとは大きく違うということだ。搦め手なんかも通用しないかもしれない。逆に俺が脳筋プレイをすることなったりしてな。


 よし。頑張るぞ!


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