56:御前試合

「止まれ。ここは王城である」


 いかにも頑丈そうな装備に身を包み、堅苦しい態度でそう聞いてくる門番。俺は同じようにあの二つセットを見せた。


「了解です。では案内の者を呼んで参りますのでしばしお待ちを」


 そう答えた門番は、もう一人の方を見て頷き奥の方へと消えていった。数分もしないうちに彼は文官のような男を連れて帰ってきた。


「ここからは私が業務を引き継ぎます。では皆様、ご案内いたします」


 軽く一礼をすると、また奥の方へと歩き出した。俺たちは彼に素直についていく。


「すごい……石造りはやっぱりかっこよさを感じるな」

「そうでしょう! 我が国が誇る超巨大円形闘技場、通称キングダムです! これはシトルイン王国が出来上がった当初から存在すると言われ、日々修繕や改築を重ねて今の形になったのですよ! しかもこの場所は全て一流の職人が魂を込めて作ったものですので、完成度も他の建物とは一線を画します! これこそ世界で最も素晴らしく美しい建物ッ!」


 文官というのは間違っていなかったが、どうやらオタクという文字をつけるのを忘れていたようだ。建物オタクか。気持ちは分からなくもないけど俺だってここまで語らないぞ?


「――おっと失礼。ここが待合室でございます。準備がありますので、ここでごゆっくりとお過ごしください」

「あ、一ついいか?」

「なんでしょうか」

「彼女たちの観覧席を用意しておいてくれないかな? さすがに見れないのは可哀想だ」

「そうですね、でも貴方が負けるところを見せつけられるのもかなり可愛そうだと思いますが……いえ、なんでもありません。陛下にそうお伝えしておきます」


 ちっ、あの野郎、最後に中々な毒を吐いていきやがったな。これは愛国心ってやつでいいんだよね? そうじゃなかったらあいつがただ性格悪いだけだからな。


「あ、すごいです! お菓子とかありますよ!」

「茶葉と湯もあるのか。さすがだな」

「拙者の好きな種類の茶菓子もあるでござる!」


 いいねぇ、早速女子会が始まっているようだ。俺? 別にいいもん、慣れっこだもん。お菓子食ってやるっ。むしゃむしゃ。


 そうして小一時間は過ぎただろうか、次第に聞こえてくるざわつきも大きくなり、ノックの音が響いた。


「陛下の準備が整いましたので、ご案内いたします。お連れの方々は彼の誘導に従ってお願いします」

「ここからは別行動だな。行ってくるよ」

「頑張ってください! 応援してます!」

「ん、ネビュトスならいける」

「心に熱く、日の丸を燃やしていってらっしゃい! でござる!」


 なんだか元気が出てきた。これで100%、絶対に勝てる。負けるなんてことは万が一にもありえない。


「さて! ついに準備が整いましたぁ! 挑戦者と我らが陛下の入場です!」


 どこからか聞こえてくるアナウンスに耳を傾けながら、「行け」と合図を出されたため、ゆっくりとした足取りで闘技場のステージへ進む。


 ――向こう側に見えたのは、まるで獅子だった。


 ヒゲを生やしていて筋骨隆々。それに加え獅子の如き威圧感。その拳一つで万物を壊してしまいそうなほどだ。もし俺を殴れば、闘技場の壁まで吹っ飛んでしまいそうだな。これは飛行フライでも使わないといけないかも。


「此度はよくぞ参った。よろしく頼む」

「もちろんだ。よろしく」


 差し出された手を、しっかりと握り返す。……あ、これは手を握りつぶそうとしてるな? 残念、俺には効果ないんだぜ。


「驚いた。あの領主からの証書を持ってくるだけの実力はある」

「あ、あの爺さんってそんなにすごい人だったのか?」

「まぁ、そうだな。俺に傷をつけたことのある数少ない人物だ」

「……ほう」


 傷をつけただけですごい扱いか。これは中々だ。勝てるのか心配になるが、頭の中には彼女たちの応援がこだまする。


 絶対に、負けられない。


「では――試合開始です!」

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