57:死合い

 最初に動き出したのは――なんて展開はない。両者が見つめ合うのみだ。いや、この場合は牽制と言えるだろうか。相手も俺も、互いに視線で射殺そうとしているようだ。


「おい……あいつらただ見つめ合ってるだけじゃねぇのか?」

「あんた、そんなんだからいつまで経っても雑魚なのよ? あの二人はな、視線での攻撃をしてるのさ。全く、これだからこのバカは……」

「言いすぎだろ! ま、まぁ……ありがとよ」


 なんだあいつら! 俺がこんな緊迫した勝負をしている中でイチャつきおって! 誰なのかも知らないけどな!


「ふっ。この程度、貴殿には通用せぬようだな。ではこちらから仕掛けさせてもらうぞ!」

「いくらでもかかってこい!」


 国王は左足で踏み込み――消えた。俺は咄嗟に殺気を感じ、軽く踏み込んで高く飛び回避する。

 下を見れば、俺が数瞬前までいた場所に右の拳を振り抜いた国王がいた。これには冷や汗を浮かべてしまうのも仕方ない。

 

 数秒の対空の後、立ち位置を入れ替わるようにして着地した俺は警戒レベルを引き上げて構えを取る。剣も魔術もすぐに使えるようにと、二つののパターンをイメージしておくのだ。


「反応速度も申し分無し。その身体の能力もだ。さすがと言えよう」

「それは……どうも。あんたもすごいな」


 まるで試しているかのような反応だ。まるで一つ一つ、丁寧にチェックするかのような。品質検査と言い換えても良い。実際そういう気分なのだから。


「では……これはどうかな?」


 次に国王がとった行動は、そこで立ち止まることだった。しかし、段々と強烈な違和感を覚え始める。


 辺りの空気が変わった。なんだか国王の覇気――闘気と言うべきだろうか――に包まれたように感じる。

 無数の国王が俺を包囲していると表現できるそれに対し、俺は周囲を警戒することしか出来なかった。そう、対抗策を知らないのだ。

 モミジはこれに似た力を操り身体を強化するが、これは体外に放出している。その時点で違いは明確だろう。


「「「さすがの貴殿でも、これは知るまい」」」


 聞こえてきたのは、いくつも重なった国王の声だ。俺の「無数の国王が~」という表現はあながち間違いでもない事が証明されたな。


 ともかく、これには魔術で対抗するしかあるまい。


灼熱大嵐フレアタイフーン!」


 俺を守るように現れた小さな渦は、すぐにステージ全体を飲み込み闘気を燃料の如く燃やし尽くしていく。


「すげええ!!」

「何が起きてるんだ……!」

「あれって魔術よね! 私あんなの知らないわ1」

「さすが陛下、獅子王にも負けずに戦ってます!」

「ん、当たり前。ボクが鍛えたのだから」

「拙者も、でござるよ!?」


 こ、ここまで言われるとなんだかむず痒いな……配下たちもベタ褒めで……えへへ。


「はっはっは! 素晴らしいぞ! 貴殿のそれは最適解――いやはやここまでの者は見たことがない! 文句なしの合格だ!」

「ご、合格……?」


 どうやら褒めてくれるのはギャラリーだけじゃないようだ。

 しかし、合格とは本当に一体何を言ってるのだろうか……


「あぁ合格だ――俺が、本気を出しても問題ないかの試験テストにな!」


 瞬間、何かが壊れる音がした。だが俺にはその正体が、感覚で理解出来てしまった。


 きっとそれは、彼を縛り抑えていた鎖だ。


 ボキボキと肩を回しながら、王は笑みを浮かべて余裕そうな声を上げる。


「貴殿も本気でかかってこればいい。先に言っておくが、俺は一回殺しただけじゃ死なないぞ? だから安心して殺したまえ。無論、俺もお前を全力で殺す」

「ははっ、あんたそんな隠し種まであったのかよ。別に問題ないけどな。俺も全力の本気でいくとしよう!」


 申し訳ないが、これは嘘だ。切り札はあるがそれらは大抵範囲攻撃だったりするので全力にはなれない。しかし本気にはなれる。


 ここからは、試合でも死合いでもない――殺し合いだ。

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