7:図書館の幽霊《ゴースト》

「えぇぇ!?」


 思わず後ずさりしてしまう俺。


「ん、譲ってくれるんだ? ありがと」


 中性的な声でそう呟いた半透明の人ゴーストは、俺を一切気にする事なくその本を手に取り読み始めた。


 その姿はまるでのようにも、のようにも見えた。


 髪は短く色は紫――というよりスミレ色か。白衣を着ており、その中は学校の制服のようにも見える白と菫色のコントラストが美しい服を着ている。薄紫のネクタイは恐らくヘソの少し上まである。下は薄紫色のハーフパンツで、細い足を露出している。靴下は白で靴は茶色のローファーだ。

 まぁ、全部半透明なんだけれどね。不思議~。


「おい、あんたは誰だ? ここは俺の城なんだが」

「あぁ、君がこの城の主なんだ。ボクはツァトリー。よろしくね。それじゃ」

「ちょっと待て、まだ話は終わってないぞ」

「えー、ボク早く読みたいんだけど」

「お前、不死者アンデットだよな? 幽霊ゴーストか?」


 すると露骨に嫌な顔をされた。


「ボクがそんな低級な不死者アンデットなわけないでしょ。いい加減にしてよ」

「じゃあ何だって言うんだ?」

「えーっとそれは……そうだ。そんな態度ってことはただの骸骨人スケルトンじゃないんでしょ? じゃあ君は種族名、言えるのかなぁ?」


 明らかに舐め腐ったような態度だ。見た目も中性的で男か女か判断が出来ない。そして一人称は「ボク」。つまり、男の娘なのか!? ――いかん余計な事を。

 論点をずらして言い負かそうという魂胆は見え見えだぞ? あいにく知ってるんだよねぇ種族名。


「俺は最上級不死者アンデットである不死者の皇帝イモータル。名をネビュトスと言う。これで満足か?」

「くっ……なんで知ってるんだよ。教えられたのか……?」

「ん? お前は俺の種族を知ってたのか?」

「いや何でもない。君はちゃんと知ってたんだなって思って」

「そうなのか……」


 俺が困惑すると深い溜め息をつかれた。ひどくない?


「しょうがないからこの本は君に渡すよ。ボクは他の本を探すから」

「おいおい話は終わってないって。なぁツァトリー。俺の配下にならないか? そうしたらこの本を読ませてやる」

「……一つ、質問がある。答えて」


 面倒そうな表情から、一気に真面目な表情へと変わる。

 その菫色の瞳は俺を射抜くかのように凝視している。


「君は、何を目的にこの世界にいるの?」

「俺はこの世界を征服する。全てを俺のものにする。そして皇帝として君臨する」

「どうしてそんなのを目指すの? 普通はそんな事、考えないよね」

「この世界の女神にそう命じられたからだ」


 アリアから、「この世界において女神は偉大で絶対」だと聞いている。

 だからこう言えば大抵はどうにかなるだろうという目論見だ。


「そっか。ねぇ、女神様の事、どう思う?」

「俺はクソだと思うね。目的を与えられたのはいいが、それに必要な何もかもが与えられてない。おまけに期限付きで出来なかったら地獄行きだと。そんなの誰が好きになるか」

「それを聞けて安心したよ――じゃあさ、配下になったらおやついっぱい食べさせて。それなら配下になってあげてもいいよ」


 意味深な事を聞くわりには欲望丸出しである。

 しかし問題はない。俺は皇帝だ。どんな者も受け入れてみせよう!


「あぁ、それでいいぞ。契約は成ったな。【不死者】支配・創造ヴァルソグニル、《支配》!」


 すぐに不死者アンデット白い光に包まれた。

 頭の上には光輪が見える。背中からは薄っすらと翼も。

 

 数秒後、光輪は首元へ移動した。そして全身の光は弾け飛んだ。

 首元には黒いチョーカーがあった。


「ん。ボク、降臨っ!」


 そしてシュタッ、という音が聞こえてきそうな決めポーズで登場した。いい性格してるじゃねぇか。


「せっかくだし俺の実験に付き合ってくれないか。賢そうだし色々役に立ってくれるだろうと思って」

「ボクが賢いように見えるぅ? えへっ、嬉しいな。じゃあ付いて行ってあげるよ~」


 これで配下をゲットだぜ。


 内心で笑みを浮かべながら、俺らは中庭へと向かった

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