8:はじめての不死者創造!

 種族固有スキル:【不死者】支配・創造ヴァルソグニルの、まだ使っていない《創造》の検証のため、城内の地図を片手に進んでいく。

 そんな俺の右を歩くのは、少し浮かれた表情を隠しきれていない紫の短髪の少年――男か女かわからないので少年と呼ぶ――のツァトリーだ。


 2人で長い廊下を見渡しながら歩いていると、突然眩しさを感じた。思わずその光に手をかざす。


「おぉ……ここら辺は月の光が差し込んで綺麗だな……」


 あまりの綺麗さと新たな発見に感動する。

 どうやらここは海沿いの場所のようで、海面に反射する月明かりがとても美しい。

 使命世界征服がなければ別荘にしたいくらいだ。


「こんな綺麗な景色見たこと無いや。ボクはあんまり外に出ないからね」

「そういや、ツァトリーはどこで何をしてたんだ? ここに来る前のこととかも聞かせてほしいな」


 アリアには強制的に聞いたが、それは不審者で信用が出来なかったからであって本意ではなかった。

 だからツァトリーにはあくまで「聞かせてほしい」のスタンスで接している。


「う~ん……あんまり言いたくないかな。あんまり人に聞かせるような話でもないよ。まぁ、君は人じゃなく不死者アンデットだけどね。あ、もしかしてそれは命令だったりする?」


 隣で歩いていたツァトリーが前へ大きく飛び、俺の前に立ちはだかって顔を覗き込んでくる。

 身長は俺のほうが高いので、ツァトリーは背伸びをする形になるが。


「いいや、命令じゃないよ。ただ聞いてみたかっただけだ。気にしなくていいよ」

「そっか、ありがと」


そうは言ったものの少しバツが悪そうな顔をしている。

 

「えっと、到着だな。ほんと広いなこの城は……」


 話題を変えようと、中庭を指差し意識を向けさせる。


 そんな中庭はサッカーやテニス、野球など、ほとんどのスポーツが余裕でできそうなほどの広いスペースがある。とんでもないな。


「じゃ、やってみるか……。ツァトリー、不死者アンデットの創造について何か知ってることはあるか?」

「ん、そうだねぇ……ボクは人が知らない事いっぱい知ってるから色々教えてあげられるよ。例えば不死者アンデットの召喚には、魂と依代や素体となる身体が必要で、ある程度の実力と魔力がある人なら魂か身体のどちらかだけでよくって、それで――」

「ちょっとストップ。それって長くなるタイプのやつ……?」

「ん、そうだね。続けて良い?」


 キラキラした目でこちらを見ているツァトリー。

 物静かな性格なのかと思いきや、どうやら好きなことになると話が止まらなくなるタイプのようだ。オタクって感じがするが、知識がない俺にとってはありがたい存在だ。


「まだ待て。それって魔力が、そうだな……た、例えばにあればどうなるんだ?」

「無限……? そんなの存在するのかな。女神様とかくらいしかいないと思うな、無限なんて。女神の臣下で最上級種族である天使族は膨大な魔力を持ってる。けど無限には届かないと思う」


そこで言葉を区切ると、ツァトリーは苦笑いをした。


「ま、その場合は召喚じゃなくてもはやだね」

「そうなのか、ありがとう。なら良かった。じゃあ早速――」

「ちょっと待ってってだから魂とか色々必要でっ――!」


 左手に持った本を見ながら右手を前につき出す。


「創造:中級不死者アンデット・〈骸骨兵隊スケルトンアーミー〉!」


 そして地面から俺と似た十体の骸骨が――俺と違う点といえば、こいつらは剣や槍、盾、そして鎧などで武装している――出現した。


「――ってえぇぇ!?」

「知らなかったか? 俺は不死者の皇帝イモータルだからこんな事もできるんだぞ」

「さ、さすが最上級種族だね……。天使族に届きうる魔力を持つなんて」


 【不死者】支配・創造ヴァルソグニルの《支配》は試した事があったが、《創造》は試したことがなかった。一発で成功してとても嬉しい。ドヤァ……

 

「なんか、ちょっと暖かくなってきたぞ……?」

 突然身体が――骨なのになぜ温度を感じるかは不明だ――暖かくなって来た。それと同時に月光とはまた違う、まばゆい光が目に映る。


「朝日か……もうそんな時間だったんだな。結局眠くならなかったし。さて! 今日はスキルをもっと試しまくるぞー!」

「おー!」


 淡い青に染められた空で光り輝く朝日に、俺らは手を伸ばし叫んだ。

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