3:邂逅

 さて。まず手始めにやるべきことは服を着ることだ。

 この城に人は恐らくいないと思うが、さすがになんか嫌だ。


 やはりまだ慣れないが、ゆっくりと慎重に歩きクローゼットを探す。


「ここは執務室、ということは部屋を出なきゃいけないのかな?」


 本棚の横にはどちらも扉があり、どこかの部屋あるいは廊下に繋がっていると考えられる。

 どちらにするのか考えるのも面倒なので、試しに右の扉を開けてみる。


「これは……すごい、いっぱい服がある!」


 運良くウォークインクローゼットがあったのだ。


 数分ゆっくり見回って良さげな服を探した。


「うむ、これがいいだろう」


 何故か服と言ってもコートと靴しかなかったのだが、その中でもとびきり良いセットを2つ見つけた。


 1つは普段用。シンプルな黒のロングコートとスニーカーっぽい歩きやすそうな黒い靴。

 もう1つは外用。鎧と外套が混ざったかのような見た目で、銀の装飾とメインの黒が印象的だ。結構硬いし、普通に装備な気がしている。靴もそれに合わせ軍靴を選んだ。


 外用のものは入口付近において、普段用の方を着る。


「さてと、次に移ろうか」


 次は作戦……はまだいいや。先に城を見て回ることにする。


 地図とかないかな、と机を見たら城内地図があったので、それを片手に進んでいく。ちなみに左の扉は廊下に繋がっていた。


 そこで食堂や訓練場、大浴場など、階段を下りながら色々見て回った。どこもかなり豪華な作りであり、とても広々としていた。

 一通り回ったあと、そろそろ外を見ようかと外へ繋がる玄関の大広間へとやってきた。


「あれは……なんだ?」


 そこには人影があったのだ。


 隠れているので全身がはっきり確認できる訳では無いが、いることはわかる。そんな感じだ。

 当然警戒心は最大になる。まだ自分が何をできるか――不死者アンデットに関すること以外はわからない中、敵かもしれない相手がいるともなれば当然の反応だろうと思う。


 だが、ここで何もせず立ち去るのも――とも思う。


 意を決して話しかけることにする。


「あ、あの~?」

「っ!?」


 それは声にならない声を出してどこかへ走り去っていってしまう。


「逃がすかっ!」


 あいにく俺はさっきまで城を見ていたのだ。地図も片手に持ってるし。勝てると思うなよ?


 そんな事を思いつつ侵入者? を追いかける。


 俺は不死者アンデット、その中でも最上級の不死者の皇帝イモータルだ。体力は無限にあるわけだし、最上級種族なので身体能力も半端ではない。姿を見失わない限りは逃さない。


 それどころか足が早すぎて距離を段々詰めていく。曲がり角があろうと速度は落ちない。


 そしてついに――


「つ~かまえたっ!!!」


 思い切り飛びかかり押し倒す。


 深く被っていたフードを無理やり脱がすとそこにあったのは――


「っ……!!」

不死者アンデット……???」


 俺と同じような顔――骨なのだから同じなのは当然だが――をした不死者アンデットであった。


「お前、なぜここにいる?」


 問いかけてもプルプル震えるばかりで何も答えやしない。

 何も吐かないぞ、という意思の現れかと思ったがある一つの可能性にたどり着く。


「もしかして、お前……喋れないんじゃないのか?」

「っ……!!!」


 そう言えば首を縦に激しくコクコクと動かした。

 ビンゴらしい。


「じゃあ、実験台になってもらうかぁ……」

「っ!?!?」


 嬉しそうだった態度が一変し、さっきより震えが激しくなっている。

 でも俺はやめないぞ?


「【不死者】支配・創造ヴァルソグニル、《支配》!」


 種族固有スキルを試す絶好のチャンスだったからな。仕方あるまい。


 スキルを使えば、不審者アンデットにすぐに変化が現れた。


 白い光に包まれ、かすかな熱を感じたのだ。

 数秒が経過すると、不審者アンデットを覆っていた光は弾け飛び、そこには整った顔立ちのメイド、つまり女が――!?


「えっちょっ……はぁ???」


 思わず後ずさってしまう。

 だって不死者アンデットが……女ぁ?

 もう何も理解できない。


「これは……!? あ、ありがとうございます!」


 自分の頬を触り、肉があることを確認した彼女はすっと立ち上がり勢いよくカーテシーをした。


「私はグノア帝国、元帝城メイド隊所属のアウレリアと申します!」

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