16:異郷の同郷(主人公視点)
ツァトリーが一人で突っ込んで、暴走して、城への攻撃を防げず――あの時は本当に肝が冷えた。言葉も出ないくらいに――絶望した顔で泣き始めて、もっと暴走して。
そんなよくわからない状況になったのでとりあえず合流し、色々話を聞いてみる。そしたらどうやら城への攻撃は俺以上に堪えていたらしい。あの感じ、過去のトラウマが原因だろう。経歴について語りたがらないのはその辺が関係しているかもしれないな。
「ん、ネビュトス。結局まだボクは魔王を倒せてない。さっさとケリをつけさせて」
「ダメだ。だってあれは――
「ん。正解だよ。驚いたな、さすがは
「やっぱツァトリーは知ってたのか……まぁ、あいつが
「ん、たしかに。――ボクの必殺技を食らって耐えてるのはそれが原因、そう、きっとそうなんだ……そのはずだ」
あーあ、露骨に動揺してるね。これは攻撃が通ってないのも精神的ダメージの要因の1つかな?
「しっかし、近くに来るとより大きく見えるよなぁ。支配してこのままだったらどうしよ」
まるで特撮モノからそのまま出てきたようなサイズ感だ。もし足元にいたら、首を直角に曲げないと上まで見ることができないだろう。
「まぁもう気にせずやるぞ! 《支配》!」
巨大な全身鎧は全て光に包まれた。するとすぐに異変が起きた。
突然バチバチバチ――と放電しはじめたのだ。まるで白い雷が光の上に覆いかぶさっているように見える。
次に起きた異変は白炎だ。それは太陽のプロミネンスを彷彿とさせる。ゆらゆらと揺らめく白い炎が――人の体温より少し高いくらいの温度だが――身体から放たれている。
「ん……これは一体何が起こってるの」
「わからん……少し身構える必要があるかもしれないな」
俺らは戦闘態勢に入る。何かあればすぐに攻撃できるように。
しかしそれは杞憂だった。
だんだん巨大な光は小さくなっていき、ついには人型ほどの大きさにまでなってしまった。
「おいおい、本当にどういうことなんだ?」
「ん。これはさすがに想定外」
そして光が弾け飛ぶ。そこにいたのは――
「ぬぬ? これは……! 久方ぶりの人の身体でござる~!」
ドーモ。サムライ=サン……じゃなくてだな。
とってもジャパニーズな女侍がそこにはいた。
黒髪黒目で和服美人、腰には刀を提げていることからも、本物かと信じてしまうほどだ――過去に本物は見たことないけれど。
「ご機嫌いかがでござるか。そこなお侍さんや、少し話をよきか?」
「
「なぜ君のような侍がここにいる? ここは日本ではないのだが」
「それには折々な理由がござる。少し長くなってしまうがよろしいか?」
「それこそ
そんなこんなで色々話を聞いた。あ、
「拙者は
そう言った彼女は、腰に提げた刀に手を触れた。その表情から察するに、日本でも使っていた思い出の品だったりするのだろう。
「そんな拙者は父上の参勤交代に護衛としてついていったのでござるが、その最中に起きた一揆により争いが起き、そこで討ち死にしてしまったのでござる。そう思った矢先、目覚めた場所は幕府の城より豪華絢爛な金色の空間であったのでござる」
金色の空間、というのはクソ女神のいた場所のことだろう。
彼女の目にはそれがよほど美しく写ったのか、腕を組み、目を閉じて
「斬られて血に染まったこの服も、傷もなかったかのように治っていて、なんと面妖なことかと驚いていた刹那に声が聞こえたのでござる。その者は自らを女神と名乗り、拙者がなぜここにいるのかを教えてくれたのでござるよ。それに、どうやらこの刀にも錆びなくなるという祝福をかけてくれたのでござる」
……やっぱり、彼女もあの女神に会っていたようだ。しかし祝福などと称して錆びなくなるだけとか、昔からクズでケチだったのかもしれんな。
――そんな風に会話していた中で1つ、何よりも驚いた発言がある。
「拙者はこの地に召喚されてから、勇者と呼ばれる勇壮な者とその仲間たちと共に行動しておった。彼らは魔王と呼ばれる悪しき存在を倒すべく、女神によって召喚された拙者を仲間に迎えたのでござる。それはそれはなんとも長い冒険と争いの旅でござったな~。参勤交代を5回ほどはできるでござろうか?」
――勇者? 魔王? 旅???
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