15:優しい皇帝(ツァトリー視点)
「ツァトリー! 大丈夫か!?」
また頭が真っ白になった。
まるで悪いことをしたのが見つかった子どものようだった。
「あっ……ボ、ボク……あうぅ……」
ボク……泣いているのか? 無様に
内面では不思議なほど冷静なのに、身体が泣くことをやめない。
「どうしたんだ、何で泣いているんだ? とりあえず言ってみろ、何も言わない方が俺は怒るぞ?」
――何も言わない方が、怒る……?
「ボク……し、城を……」
混乱した頭で発することが出来た言葉はそれだけだった。最低限の情報さえ伝えられれば……そう本能が判断したのだろう。
「城……? あぁ、なるほど。大丈夫。俺は怒ってない……というか、どこも壊れてないぞ」
――壊れて、ない……!?
その言葉に動揺したのか、未だ怖がる心に反し身体は城を向く。
そこには――――全くの無傷で、先程と何も変わらない城があった。
「えっ……どうして……? さっき爆発したはず……!」
「俺も何が起こったのか分かんなかったんだけどさ。ヴィルに聞いたところ、攻撃が当たる瞬間に一瞬結界のようなものが見えたらしいんだ。その結界が守ってくれたおかげで城は無事なんだと」
「けっ……かい……!? そんなものがあったんだ……」
思わず唖然としてしまう。
あんなに心配したのに、あんなに怖がったのに……まぁ、結果的には良かったんだろう。
しかしボクが一切感知出来ない程の、そして魔王の攻撃をやすやすと受け止めることができる結界、か。こんな人のいない大地でそれはあまりにも不自然すぎる。後で調べる必要があるな。
あれ、ちょっと待って……? そもそも今ここって空中じゃなかったっけ?
悩みが解決すると、思考が現実に即したものになる。
「な、なんだ? もしかして俺が空中にいる理由か?」
「えっ、いま心を読んだ!?」
「いんや? そんな高等テクニックは俺にはないね。ただまぁ、ツァトリーの気持ちが分かるようになったって思うと嬉しいな」
な、なんだ……なんか顔が赤いような気がする……!
身体が熱い……うぅ……
「おっと、質問に答えてなかったな。これはと~っても簡単な理由さ。どうやら俺は魔導書なんかいらんらしい。名前を詠唱するだけでできちゃったよ」
「ん……!? ネビュトス、もしかして天使だったりしない?」
「天使ぃ……? 一体どうしてそんな話になるんだ?」
「ん。天使は魔導書なんかいらない。あれは下等種族のためのアイテム」
「そ、そうなのか……しかし俺の種族は
その発言はボクにとって――いや、ヴィルやアリアもそう思うはず――衝撃であった。
「ん。ネビュトス、
「えっ……そうなのか。あいつ、本当に何も説明してないな。職務怠慢だろ……」
「……女神様はそういうお方だよ」
「うん? 今何か言ったか?」
「ん、何にも言ってないよ」
あんまりこの話題は続けるべきじゃない、そう思い適当な方向を向く。そこには鎖で縛られ、身動きが取れない魔王がいた。
「ん、ネビュトス。結局まだボクは魔王を倒せてない。さっさとケリをつけさせて」
「ダメだ。だってあれは――
「……正解だよ。驚いたな、さすがは
「やっぱツァトリーは知ってたのか……まぁ、あいつが
「ん、たしかに」
ボクはネビュトスの問いに頷くと、2人一緒に魔王の方へ向かった。
あぁ、やっぱりネビュトスは優しい皇帝だ。
ボクは心からそう思った。
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