20:帰還
「おぉ、ツァトリーとヴィル! 先に帰ってきてたんだな」
彼女らを森の中に置いてきてしまっていたので心配していたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
俺は安心して話を続ける。
「2人とも出迎えありがとう。あ、タオルとかあるか?」
「ん。そう言うと思って用意してる」
そうツァトリーが言うと、自分のポケットに手を入れ、到底ポケットには入らない程の大きさのタオルを取り出した。
そしてそれをふんわりと俺に向かって投げた。
「よ……っと。ありがとう。ほらアリア、降りて髪を拭きなさい」
「は、はいっ」
ゆっくりと俺から降りたアリアは、タオルを受け取ると優しく髪を拭き始めた。
「というかツァトリー、今どこからタオルを出した?」
「ん? ポケットだけど」
「……ポケットに入る大きさじゃないと思うんだけど」
「ん、そういうことか。これはね。
「そんなものがあるんだな。でもいちいち使うのは面倒じゃないのか?」
「ん。その必要はない。この魔術は収納を開放するためのもの。一度使えれば二度と詠唱せずとも使える。だけどそもそも使うのに魔力を大量に使うのと、魔力がないと開けないから上級魔術として扱われてるよ」
そう説明したツァトリーは、突然虚空に手を突っ込み、何かを取り出しては戻しを繰り返し始めた。
魔力を大量に消費するはずなのに何回も出し入れができるということは、ツァトリーがそれに耐えることができるほどの魔力を持っているといいう証拠だ。そんなツァトリーは涼しげな顔をしていることからも余裕さが感じられる。
まぁ、俺は魔力が無限にあるはずなので魔力について心配する意味はないのだが。
「ま、こんな感じで自由にものを取り出せるよ。ここから剣を抜き放つ剣士も少なくないんだよね」
「なるほど。それは合理的だな……剣だけの勝負の場合か魔力に自信のある者は、だが」
剣――つまり自らの獲物を見せないのは、相手に疑問を抱かせ、反応を遅らせることができる。もしかしたら槍かもしれない、もしかしたら大剣かもしれない……といった感じに。
武器によって対応は変わるものだから有効な手だな。俺もいつか真似しよっと。
「あ、そうだモミジ。話の続きを聞かせてほしいんだが……どうすればいいかな」
そう言ってモミジの方を向く。タオルはいるのかな、と思ったが服が一切濡れていないようだった。
「
ちょうどいいから、と思い詠唱すると、目の前に空間の裂け目が現れた。その先にはどこまでも広がっていそうな美しい星空があった。
俺は迷わずタオルを入れ、閉じるように念じれば裂け目は跡形もなく消え去った。
「拙者に任せるでござる。魔王を倒すためにここに来たのでござるからな。しっかりと城の内部は事細かに把握しているでござるよ」
「おぉ、なんと頼もしい! じゃあ案内よろしく頼む」
「うむ、任されたでござる」
周りを見れば、皆一様に頷いていた。問題ないということだろう。
俺はモミジに向き直り軽く頷けば、彼女は足を踏み出した。決して早くはないものの、迷いのない歩み。ここへ来たことがあるのは本当なのだと実感させられる。
そして長い廊下を歩くこと数分。彼女が足を止めたのは、見覚えのある大きな扉の前であった。
「ここって……図書館じゃないか!」
「左様にござる。ここに特別な部屋があるのでござるよ」
そう言う彼女は扉を軽く押し開ける。
それに続くように俺らも図書館へと足を踏み入れた。
この前は高ぶる気持ちを抑えられず、早歩きで本だけを探していた。なので図書館の構造などは一切見ていない。
そのことがどうも惜しまれて上の方を見る。
「うおぉ……!」
そこにはどこまでも続きそうな空中回廊があった。
通路が空中で交錯していたり、本棚が無数にあったりと、その様は思わず舌を巻くものだった。
それに加え、窓がところどころに点在しており綺麗な陽光が差し込んでいる。そのおかげで明るさは確保されているし、それと同時にもはや神聖さすら感じるほど美しい。
「ネビュトス殿の思いは分かるでござるよ。拙者は別段読書が好きなわけでも嫌いなわけでもないでござるが、ここを初めてみたときは思わず息を呑んでしまったでござるよ。ここでなら読書したいと思えるでござろう?」
「心から同意するよ。時間をいくらでも潰せそうだ。……俺にはそんな時間ないけどね」
「む? その話、詳しく聞かせて頂きたい」
「そうか。じゃあその部屋につくまでの暇つぶしにしよう」
そして俺は、モミジに対し今までの出来事を話した。
女神のことも、二週間の期限のことも、彼女らとの出会いについても。
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