21:城の秘密の一端を
モミジに今まで俺が過ごした出来事について、順を追って説明しながら歩いて数十分。見上げた先にある空中回廊に行くのかと思いきやその逆で、地下に向かって足を進めていた。
本がずらりと並ぶ場所から景色は一変し、だんだん本も少なくなってきたかと思ったら、モミジはそこで足を止めた。そこにはいかにも頑丈そうな金属の扉があった。
彼女はそこにそっと手を触れると、その場所を中心にして円を描くように扉は水色に光を発した。それを見た彼女は安心したような息を漏らした。
「良かったでござる。どうやら機械系統は生きているようでござるね」
「ちょっと待った、今機械って言ったか? どういうことなんだ?」
「すぐに分かるでござるよ」
そう言ったモミジは、大きく深呼吸をして続けた。
「この世に討つべき敵がいる限り、神薙の精神忘れるべからず。未だ紅葉は散らぬまま、刀は錆びずここにあり」
それはとても澄んだ声だった。どこかに、誰かに届けと願うような、そんな意思がそこにはあったのだと思う。
『ユーザ認証完了。ようこそ。
その声に返答したのは、至って機械的な音声だった。
俺にとっては少し懐かしいと感じるようなそれ。
しかし感傷に耽る暇もなく、ピピッという電子音とともに扉が開いた。
その先にあったのは、全てが金属で出来た、まるで要塞のような通路だった。モミジはそれらに一切興味を示すことなく、淡々と歩いていく。
「おい、さっきのは音声認証じゃないのか? さ、さすがに疑問が多すぎるんだけど……」
「おんせい……にんしょう? 陛下、なんですかそれ?」
「おぉ、さすがネビュトス殿。江戸より未来に生きていただけはあるでござるな。よければアリア殿にも分かるように説明してはいただけぬか?」
「ん。これにはボクも興味ある。混ぜて」
「妾もお願いしたい」
「分かったよ。簡単にだけどそれでいいなら」
場を仕切り直すようにわざとらしく咳払いをし、話を始める。
といっても俺はあまり専門的なことは分からない。前世で俺は文系だったのを覚えている。数学はてんでだめだったなぁ……なんて。
「俺の推測もかなり含まれているが、知識を基に考えるならば、あの扉には……魂を持たない人みたいなのが入ってるんだ。命令に忠実であり、命令文が間違ってさえいなければその通りに動く」
ここまでは現代人ならば分かることだろう。プログラミングの基礎だからな。
「そしてその魂を持たない人――人工知能と呼ばれるものだが、それがモミジの情報を記憶していたんだ。機械というのは壊れることもあるが、この人工知能は壊れることなく作動していた。だからさっき、モミジが安堵したような息を漏らしたわけだ」
ここまで言って、一度皆の顔色を見てみる。
アリアは興味津々そうだが、一部理解していなさそうな感じ。
ツァトリーはぼーっとしているが、目がよく動いていることから、頭の中で理解し自分なりに解釈していたりするのだろう。
ヴィルは全くもってちんぷんかんぷん、といった感じだな。
そして最後、モミジはうんうんと頷いている。恐らく俺は正解を口にしているのだと思う。
少し自信を持って続ける。
「次に音声認証だな。暗号を決めて、その声を人工知能が保存する。人工知能がモミジの声の波長……えっと、特徴を数字とかに置き換えて認識して、暗号と同じ数字を持つ音を本人だと認識して解錠する……って感じだな。以上だ」
そう俺が説明すると、モミジが拍手をし始めた。
「正解でござる。さすがはネビュトス殿でござるな。わかりやすい説明だったでござるよ」
「モミジさんに賛成です! とってもわかりやすかったですよ、陛下!」
「ん。ボクも賛成」
「ツァトリー様に同じく」
「おぉ……皆、ありがとう!」
なんだか嬉しくなってしまったが、ただ基礎的なことの説明をしているだけだ、と思うと途端に物寂しさを覚えるのはなぜだろう。
「さて、皆の衆。着いたでござるよ」
その言葉により現実に引き戻され、モミジが指をさす方を見る。
そこには、先程見たものよりさらに頑丈そうな鉄の扉があった、
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