34:馬鹿め

昨日から連載開始した新作です!毎日7時更新です! https://kakuyomu.jp/works/16817330668066613679



「そろそろ到着だろうか。街が見えてきたぞ」

「さすがヴィル。目が良いな」

「むぅ、目といえば私じゃないんですか?」


 出発から数時間。海の上を延々と飛行し続け、水平線に街が見える距離にまでやってきた。


 そんな中、ふと呟いたツァトリーの言葉。


「……ネビュトスって骸骨じゃん。どうするの」

「「「あっ……」」」

「人間の街に入るのに骨がいたら……」


 正論すぎて言葉が出ない。

 そういえば皆は人間の見た目だ――中身がどうであれ。


「そういえば見た目を変える魔術があったはず。それを使えばいいんじゃないか?」

「さすが陛下! こんな状況も予測してたんですねっ!」

「ん、予測してたらこうはなってない」

「確かに……」

「じゃあ早速使うか。幻覚変身ミューテイト


 早速魔術を使った瞬間、自らの身体が光に包まれた。しかし何か物理的な感覚は感じない。肉体ができるわけでもないのだから仕方ないのだろう。


「っと。どうだ? どう見える? ……みんな?」


 光が消え、見た目がどうなったのかを聞いたのだが……皆が口を開けてポカンとしている。何も言わない。なんで?


「へ、陛下……かっこいいです……」

「ん、これは美男。世界一」

「ツァトリー様……世界一は言い過ぎでは……しかし、確かに整った顔だというのは間違いないだろう」

「拙者も同意でござるよ」

「そ、そうなのか……それはありがとう。良かったよ」


 あまりにもベタ褒めされるとなんだか気恥ずかしいな……ここは話題を変えるべき。うん。


「おっと。そろそろ到着するみたいだぞ。用意しろよな」

「「「はーい!」」」


 そして数分後、ゆっくりと地面に降り立ったあと、飛行船は海に沈めた。証拠隠滅は当然必要だからな。それが終わればいよいよゲーテに入る。


「ん? 見かけない顔だな。どこから来た?」

「俺たちは船旅をしていたんだ。そしたら漂流してしまってここに辿り着いた。街に入れてくれないか?」

「そりゃ災難だったな。いいだろう、まずは詰所で話を聞かせてくれ」

「わかった――」


 そう言って街に入ろうとした瞬間、身体が少し重くなり、何かを知らせるように音が鳴り始めた。


「待て。貴様……魔物だな。こちらへ来い」


 門番だけでなく、街から衛兵が数人やってきて、槍でこちらを脅しはじめた。


「待てって! なんでそんな事をするんだ! 俺は魔物じゃ――」

「嘘を付くな! この音は魔物が現れたときの警報なのだよ!」

「くっ……分かったよ。どこへ連れて行く気だ?」

「そんな事はどうでもいい。暴れるな。抵抗するな。ただ従え」


 くそっ……幸先悪いな。まさかいきなりこうなるとは。


「そこの女たちも連行する。全員目隠しをしろ」

「はっ」


 衛兵が数人、腰のバッグから黒い袋を取り出した。それを俺らの頭に被せていく。作りはしっかりしていて、ちゃんと外が見えないようになっている。そして手首に縄を巻き付け動き出す。


 少し歩いていくと空気が変わった。少し冷ややかで、地面もなんだか石の硬さになった。次に何か金属の音がした。扉が開いたかのような音だ。


 そう思っていたらいきなり袋を外された。そこは牢屋――地下牢なのだろう――だった。


「今から尋問を開始する。嘘を言えば刺す。お前たちはどこから来た?」

「……あーもうめんどくさいや。配下よ、彼らを無力化しろ」

「はぁ――!?」


 いちいちこいつらの問答に付き合うのも面倒だ。

 ということで無力化を指示したわけだが、さすがの強さ。アリアは素直に魔術で拘束し、ツァトリーは魔術で石化させ、ヴィルは空中に浮かせ、モミジは鞘で気絶させる――といったように、それぞれが目の前にいた衛兵を無力化したのだ。

 もちろん自らの拘束も瞬時に外している。しかもアリアは先に縄を切っていた。


「き、貴様ら何者だ!?」


 とてもちょうどいい質問だ。ありがたい。

 俺はおもむろに立ち上がり胸を張って言う。


「我はオシアス皇国の皇帝であるネビュトス。この街を占拠しに来た!」

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