35:(オシアス皇国領の)ゲーテ事変
「オシアス皇国……? 知らん名前だな。国ごっこでもやってるのかよ」
「はっ、俺に逆らってみろ。お前も
抵抗されたり逃げられないようにと先に縄で動けなくしておく。しかしそんな事をしてもその顔には未だ嘲笑が浮かんでいた。
「暴れるな。抵抗するな。ただ従え、だったか? そっくりそのままお返ししよう。ツァトリー、こいつらを眠らせてくれ。ヴィル、領主の館と居場所を探してくれ」
「ん。
「了解だ。
ヴィルは透明になり姿が見えなくなった。その次に声だけが響いた。さすが、優秀だな。指示してないこともこなしてくれる。
「さぁ、こちらが尋問する番だな。お前の名前と所属と役職を答えろ」
「貴様のような魔物ごときに答えるわけあるか。身の程を知れ」
「……
「ぎゃあああ! う、腕がっ……!!!」
「その程度の覚悟であんな事を言ってたのかぁ……? それじゃあただの世迷い言だな」
「わ、分かったから! なんでも話す!」
「ふん、やっと理解したか」
――なんだろう、こいつのような力もないのに口だけは達者な奴が嫌いなんだろうな俺。
まぁそれは分からないが、あんまりこういう事をやりすぎてはいけないな。そう自分を戒め、気をつけながら尋問を続ける。
「俺はイヨド、家名はない。この街ゲーテの衛兵隊所属で第二隊隊長だ」
「ふむ。よろしい。次は何を——」
「ネビュトス陛下。戻ってまいりましたぞ」
「おぉヴィル。早いな」
どこからか声が聞こえると共に姿を現したヴィル。彼女は話を続ける。
「どうやらこの部屋は領主の館の地下でありました。領主もそこに。妾はこいつを人質に交渉するべきだと思う」
「俺はヴィルの意見に賛成だ。皆はどう思う?」
そう問いかけると皆は無言で頷いた。
「俺は嫌だぞ……人質になるなんて!」
「うるせぇ腕切るぞ」
「悪かったよ!」
炎で傷口が塞がっているため血は流れていない。しかし痛みはかなりのものだろう。よく意識を保てるな……こいつかなり強いのでは?
「じゃあ行くぞ。ヴィル、案内してくれ。こいつらは放置でいいや」
「了解だ」
俺らはぞろぞろと歩き始めた。建物の構造が石造りから木造へと変わっていく。
「ここだ——」
「
「――って何をしてるんだ!?」
「入る時は威勢よく。景気付けってのもある」
「えぇ……?」
おっと、常識人なヴィルを困惑させてしまった。まぁいいか。扉を木っ端微塵にしてしまったけど気にしない。
それに困惑してるのはヴィルだけではない。扉の向こうにいる太ったおっさんも困惑してる。アホみたいな顔して突っ立ってる様は滑稽だ。
「な、なんだ貴様らは! ゲーテの領主と知っての狼藉か無礼者!」
「こんにちはおっさん。こいつが誰か分かるか?」
そう言ってイヨドを前に突き出す。
「あー……誰だったかな。君は……井戸じゃないイヨドだ!
「井戸じゃねぇよイヨドだよ! なぁネビュトス……とか言ったか? もうこいつ殺していいっすよ」
「辛いよなイヨド……大丈夫だ、あとでこいつは道具として使うから」
「あざっす!」
イヨド……可愛そうだな。しっかり同情してやるよ……
「さっきから何を言ってるんだね貴様らは。私は忙しいのだよ。帰ってくれたまえ」
「なぁおっさん。こいつは第二衛兵隊の隊長なんだとな。そいつを縛ってここに連れてきた俺らはどんな存在だと思う?」
「……知るか。有象無象など」
「アリア、ヴィル。もう俺の独断で進めていいか? 後で計画に戻す」
「もちろんです陛下。私達は陛下にお仕えする身ですから」
「妾も異議はない」
勧善懲悪――など俺が言う言葉ではないだろう。しかし大義名分があれば良かろうなのだ。
「
その
爆発したわけでもないし、刃などを放ったわけでもない。まるで身体をつなげる部品が消え失せてしまったかのようだった。しかし首だけは少し残っていて、目を丸くして畏怖するかのような視線がこちらを向いていた。
「……
次にそう呟けば、まるでそんな悲劇がなかったかのように身体が戻っていく。傷跡一つ残らず復元されたのだ。
「ここはこれからオシアス皇国領ゲーテだ。いいな?」
「……はい」
――だがしかし。心には痛みと苦しみが、傷跡が深く跡を残していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます