36:そうだ、冒険者になろう
領主を肉塊にして再生するという脅迫を行い、ここを我が国の領土とする事を認めさせることに成功した。それによって計画は更に滞りなく進むだろう。
そして俺らは計画どおりに冒険者になることにした。
さて、冒険者とはなにか。
それは数百年前のこと。とある村に起きた食料危機を救う為に立ち上がった者たちがいた。そしてそれが毎年の慣習になり、村が国へと変わる頃には狩りだけでなく冒険をして遠い場所に赴くようになったのだ。ときには魔物の素材を、ときには遺跡などの情報を持って帰ってくる――という出来事が冒険者の起源とされているのだ。
今では冒険者文化は世界に広がり、冒険者ギルドという組織が統括するようになった。もちろん、遠くへ赴くなんてことはあまり起きないので大抵は便利屋のような扱いにはなっているのだが。
「これが冒険者ギルド、か」
城の蔵書を呼んでいた際、冒険者ギルドについても書いてあったのを見つけていた。なので紋章や仕事についても知っているのだ。起源の話もその本の受け売りというわけで。
……今思えば本はどれも新品みたいだったな。管理する人がいないのに綺麗ということはクソ女神が関わっているような気がしてならない。
「いやぁ、久方ぶりでござるな。しかし当時はまだあまり大きい組織ではなかったでござるがな」
「モミジさんってギルドに所属してたんですね! まさに生きる歴史です!」
「それほどでもないでござるよ~」
褒め言葉なのかよくわからないが、モミジはそう言われて嬉しそうに微笑んでいる。やはりモミジを連れてきて正解だったかもしれないな。物事をよく知る人物がいれば心強い。
「あ、あの……儂はどうすれば……」
「お前は喋らんでいい。ただそこでプカプカ浮いてればな」
「はい……」
俺とアリアとモミジでパーティーを組もうとしているが、この場にはもう一人いる。何を隠そう領主だ。舐められないように、とかお守りとかの意味があるだろうと思い持ってきた。魔術で浮かせているので抵抗も不可能。実に素晴らしいアイデアだ。
……周りからは奇異の視線で見られるけどね。
「あー、冒険者登録ってどこでできるんだ?」
「はい! それならここで――って領主様ぁ!?」
「領主だと!?」
「なんでここに……」
元々人の話し声が騒がしかったギルド内が更に騒がしくなる。邪魔やなぁ……
「いいから登録させてくれ。こいつは無視していい。俺が拘束してるから」
「……領主様、いいんですか?」
「彼の言う事は聞くべきだ……」
「あ、はい……では登録しますね。登録はそのお三方でいいですか?」
「そうだ。俺からネビュトス、モミジ、アリアだ。剣術も魔術も扱えるぞ。パーティー名はバクフで頼む。これでいいか?」
いちいちやり取りを交わすのも時間の無駄だ。これらの情報があれば登録が終わるので早口で捲し立てていく。
「は、はい。ありがとうございます。必要な情報は全部揃いました。『Dランク冒険者パーティーのバクフ』の皆様。依頼を受けていかれますか?」
「そうだな。一番強い魔物の討伐依頼を受けたい」
「Dランクですとあまり強い魔物は……領主様?」
こっそりといった感じで受付嬢が判断を仰いでいる。よく聞けるよな。中々肝が座っているのかもしれない。
「特例だ。構わん。確か東の森に討伐困難と指定された奴がいただろう。それでいい」
「それ本気ですか!?」
「なぜ俺らがこいつを拘束出来てると思う? それなりの強さがなければ出来ないだろう。俺とアリアは上級魔術師だ。というかもっと強いのも使える。受けても問題はない」
「ではかしこまりました……Aランク依頼の受注を受け付けました。あとはもう領主様に聞いてください」
面倒くさそうに受付嬢は言い放った。半分くらい職務放棄だろ、と思うが心労が酷いのだろうと察して足早にギルドを出る。
いやぁ、領主を連れてきてよかった。おかげで舐められて絡まれて~なんて事が起こらなかったからな。
「じゃ、今から出発だ。詳細はこいつに道中で聞けばいいや」
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