37:魔物討伐へ

 場所は変わって森の中。鬱蒼としていて少し気味が悪いとすら言える場所。俺たちバクフの三人は似つかわしくない軽装で森を歩いていた。


「おっさん。件の魔物について教えてくれ」

「……それは恐ろしい大蛇。物を溶かす液体を吐き散らし、その巨躯で辺りを壊しながら縦横無尽に這いずり回る。その漆黒の色に似つかわしい邪悪さは幾人もの兵士を殺してきた。それによって我々は討伐困難に指定したのだ。と言っても、儂らは不可能だと思っておる。ギルドには不可能という宣言が出せないのだからな」


 悲痛な顔持ちでそう語った領主。浮いてなければもう少し雰囲気出たのにな、とは思ってしまうが、話はよく理解できた。


「なるほど……まぁ多分大丈夫だ。なんとかして見せるからな」

「助かる……」


 そうして歩くこと数十分。少し開けた場所へと到着した。


 そこには数メートルの大きな黒蛇が一匹、自分の尾を口で咥えて円を描くように横たわっていた。


「おっさん、これが?」

「あぁ。これが討伐困難に指定された『殺戮の黒蛇』だ」

「大きいでござるな……切り甲斐がありそうでござる」

「的が大きいと当たりやすくて助かりますからね!」

「……黒蛇と同じくらい恐ろしいのぉ」

「聞こえてるぞおっさん」

「ひいぃ!」


 まだ戦いも始まってないのにおっさんが怖がってどうする……まぁともかく。これは先制攻撃ができるってことだよな?


「先手必勝! 一撃必殺! 摂理:落雷ライトニング・ストライクっ!」


 ありったけの魔力を込めて、魔力の充填時間をほぼゼロにし発動。すぐに視界が白に染まる。


「ちっ……これは目覚ましのアラームじゃねぇんだぞ」

「さすがに討伐困難なだけはあるでござるな……」

「今ので殺せなかったら無理な気がしてきましたぁ……」


 そこには元気にとぐろを巻いて威嚇している黒蛇くんがいた。どう考えてもキレてるし、いつでも殺しに来そうな勢いだ。


「気を取り直して! 行くぞアリア、モミジ!」

「はい!」

「もちろん!」


 その合図と同時に駆け出す。モミジは刀を抜き前衛に、アリアは少し離れて後衛、俺はどっちもできるために中衛もとい遊撃だ。


「ハッ!」


 モミジが勇猛果敢に斬りかかる。しかしグニャグニャな蛇の動きで躱されてしまう。


突爆風槍ウィンディランス!」


 炎や水より早いだろう風の槍をアリアは飛ばすも、頭を打ち付けることによってかき消された。

 そんな蛇くんはモミジよりアリアの方を危険視したのだろう、モミジを無視して後方へと突進し始めた。


「俺の事を忘れてもらっちゃ困るな! 上昇風圧アップドラフト爆炎撃槍ブレイズスピア!」


 タイミングを見計らって上へ飛ばし、炎の槍を打ち込んだ。その隙に骸刀ムクロガタナを作っておく。


「モミジ! 大きいのは狙うな、ダメージを蓄積させていけ!」

「承知!」

「アリア! 同じだ、軽い魔術を撃ちまくれ!」

「了解!」


 避けられるならば避けられぬほどの剣戟を、弾幕を浴びせれば良い。それができるのならば良い選択肢なはずだ。


 もちろん俺も攻撃を浴びせる。二人の邪魔にならないように、広範囲系のものは控えて小さめの魔術を連発していく。するとそこにモミジの声が響いた。


「酸が飛んでくるでござるよ!」


 こいつの攻撃手段の一つである酸をついに使った。これで俺らを殺せると思ったのだろうが、そうはいかない。


二重詠唱タブルキャスト吸引圧迫サクションプレスっ!」


 刹那、空中に二つの大きな空気の渦が生まれた。それらがどんどん黄色い液体を全て吸い込んでいき数十秒。ついに酸は止み、それと同時に渦も消え去った。


「今だ、四重詠唱クアドラキャスト消滅光線ヴァニッシュレイ! 転移テレポート


 白く煌めく光の線が四つ、蛇に向かって直進していく。それらがぶつかるのを見届ける前に、俺は蛇の上へと転移した。

 蛇は突然上に現れた俺の方を向き、襲いかかろうとするも消滅光線ヴァニッシュレイが衝突して痛みに身体をうねらせる。俺はすぐに飛行フライを使ってその傷口、いや風穴の前まで移動し――骸刀ムクロガタナを突き刺した。ついでにグリグリと内部を痛めつけておく。


 蛇は耳をつんざくほどの鳴き声を上げ、必死に抵抗するも俺は浮いているため離れることはない。さぁ、トドメと行こうか。


「――爆裂破散エクスプロージョンっ!」

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