25:ツァトリー先生との魔術訓練
「あぁ。よろしく頼む」
ツァトリーによる訓練開始の言葉を受け、俺は広い平原のような中庭へと目を向けた。
「ん。まずは……上級の魔術をちゃちゃっとやろうか」
「上級……!? いきなりすぎないか?」
「大丈夫。というか中級とか初級とか使ったところで意味ないでしょ」
「ま、まぁ……一理あるけど」
「じゃ、構えて。ボクが魔術の名前と説明を言うから、すぐに使ってイメージを掴んで」
その言葉と同時に、ツァトリーは大きく前方へ跳躍した。そして次の瞬間、地面から金色に光る大きな岩が生えてきた。
「ん。これを的だと思って。最初は……
「ちょっと適当すぎないか……!? え、えっと。
俺は脳内に考えうる限り最大の地獄絵図を描いた。まるで炎の嵐が辺りを焼き尽くすような。
そして魔術が発動されると同時に、それが現実となった。
真っ赤に燃える炎が、渦を巻いてそこに存在しているかのようだ。火の粉がそこら中に散り、あの的をドロドロに溶かさんとしている。
「あ、あれは大丈夫なのかっ!?」
「ん。いいね。さすがネビュトス、魔力に物を言わせてとんでもない威力になってる」
「そんな呑気なこと言ってる場合かよ!?」
「……そう思うなら魔術を解除しなよ。魔力を送るのやめればいいだけじゃん」
「そうだった……!」
俺は慌てて魔力の供給を遮断した。
すぐさま嵐は消え去り、辺りは何も変わることなく存在していた。
しかしあの岩だけは別で、ぷくぷくという音を発しながら溶岩と化していた。あの金色が見る影もない真っ赤へ豹変している様には、思わず恐怖を感じてしまう。
「あれ、何も変わってない……? 威力が高いんじゃなかったか?」
「実はね。この城、びっくりするくらい結界が敷き詰められてるの。城を囲ってたのもそうだし、この庭も燃えないように結界が仕掛けてある。建物は逆に壊れやすくなってて、壊れるとダメなとこだけ結界があるんだ」
「なるほどな……そうだったのか」
「ん。だから思う存分暴れて良いんだよ。こんな風にねっ――|」
刹那、ツァトリーが手を広げると、彼女の足元に大きく一つ、頭上には幾重にも連なる魔法陣が現れた。それらは全て黄色に煌めいており、バチバチと音を立てながら放電している。
「お、おい……大丈夫か?」
「んっ……結界は……多分大丈夫……」
「違うそうじゃない……!」
ツァトリーの表情は険しいものになっていき、魔法陣がより一層煌めきを放った瞬間、彼女は目を見開き叫ぶ。
「
遥か上空に、突如暗雲が立ち込めた。
そしてそこから――耳をつんざくような雷鳴と、眩い雷閃と共に雷が落ちてきた。
「はぁ……はぁ……ボクの身体をもってしても魔力が底をつきそう……」
荒い息をしつつ言葉を紡ぐ。
「分かったから、一回息を整えてくれ……話はそれからだ」
すぅ、はぁ、と深呼吸を数回繰り返し、最後に大きく息を吐きだす。
小声で「よし」と呟くと、彼女はこちらを見て言った。
「これが魔術の遥か先の境地――魔法だよ。正式には摂理魔法だね」
「摂理……魔法? そんなのどこにも載ってなかった概念なんだが……?
「当然だよ。これを知ってるのはこの世界でもごく一部。もし魔法使いに出会ったら死闘を覚悟すべきだよ」
「た、確かにそうだな……」
「仕組みはまた今度解説してあげる。とりあえず上級魔術の訓練からだね」
「了解だ」
先程の落雷により、あの的だったものがもはや消え去っていた。俺が知っている普通の雷より、数段威力が強いのではないかと思う。
そのため彼女は再び的を作り直し、訓練の再開を告げた。
「次は……
「分かった。……
ツァトリーの指示通り、しっかり脳内で想像してから魔術を詠唱した。
すると現れたのは大きな水の刃。直径は二メートルほどあるだろうか。内部をよく見ると、細かな水の粒子が高速で渦巻いている。
腕を横に薙ぐと、それは高速で飛んでいき、なんの抵抗もなく岩を貫通、そのままどこかへ行ってしまった。
変なものが切れたら嫌なので慌てて俺は魔術を解除する。
「ん。いい感じ。あと適当にいくつかやったらお待ちかね、
「お、やっとか。それが出来ないと話にならないよな」
ツァトリーは俯き、何かを思案する素振りを見せたが、すぐに顔を上げて俺に告げる。
「ん、次はね……ちょっと面白いのにしよっかな。無属性魔術については知ってる?」
「もちろんだ。炎や水、風、岩など、属性と呼ばれる『魔術の方向性』に色をつけない魔術、だったか?」
「正解。次は上級無属性魔術だよ」
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