3日目:不死者の皇帝は訓練を積む
24:前途多難
ここは城の図書館――いや、もはや大図書館と言うべきだろうか。
夕日が美しかったのも束の間、気づけば日が暮れて、世界が眠りに就いてしまっていた。
「よしっ……と。これである程度の知識はついたかな。
もし、適当な本の内容を暗唱しろと言われたら一字一句間違えることがないと自信を持って言えるほど、この身体は記憶力が優れている。それに読むのも遅い訳では無い。
そのため読みたい本や読むべき本はあらかた読み終わってしまった。
「……暇だし、別の本を探すか」
集合は朝だ。早く呼び出してしまっては申し訳ないので、次の本を探すことに決めた。
「う~ん……どうせ科学はまともじゃないだろうし……」
目についたのは科学に関する本だった。
中世において、科学には効果がないものや、間違った情報が多くあると習った覚えがある。
理科はあまり好きではなかったが、全くの無知というわけでもないので無視して他の本を探す。
「これは――宗教、か。盲点だったな……よし、これにするか」
朝までの暇つぶしに選んだのは宗教の――正式には創世教という――本だった。
恐らくあのクソ女神について書かれたものだろう。どれだけ脚色されているのか楽しみで仕方ない。他には現地人に話を合わせるために必要だという理由もあるが、やっぱり好奇心は止められない。
「精神的に向上心のないものは馬鹿だ、と言うしな。向上心マシマシで行くぜ!」
――そうして読むこと数時間。鳥のさえずりが聞こえ始め、部屋も次第に明るくなってきたように思う。それと共に一つの声が聞こえた。
「ん。ネビュトス、もう朝。そろそろ時間だよ」
「……あ、ツァトリーか。おはよう。そうだな、そろそろ行くよ」
「おはよ。中庭で待ってるから」
そう言い残してツァトリーは白い粒子となって消えてしまった。
突然のことに少し驚くも、彼女が転移に関する魔術をよく使っていたことを思い出せば先程の現象について理解することが出来た。
「俺も転移、使えるかな……
読んだ本の中には魔術についての物があったわけだが、やはり生活において重要な要素である魔術の本は数多くあった。
そこには
なので俺はその通り、あの中庭を脳内に思い浮かべた。
すると、突然目の前の景色が一変した。本が立ち並ぶ室内から、雲が浮かぶ空……ってあれ?
「空中に
慌てて下を見れば、驚き半分、呆れ半分の表情をしたツァトリーがいた。
「ツァトリーー! 俺はどうすればいいんだー!」
「――
ツァトリーが何かを呟くと、耳元、いや脳内に声が聞こえた。
『ん。ネビュトス、体力って無限なんでしょ? 別に落ちても死なないよ』
「まぁ、確かにそうなんだけど……ってどこから声が!? もしかして頭の中に直接!?」
『ん。正解。これは
「それはすごいな! でもなんで俺の声が聞こえるんだ!?」
『……ボクの耳が良いってのもあるけど、さっきから親切に大声で叫んでくれてるじゃん』
「そうだった……」
そんな会話をしているうちにだんだん地面が近づいてきた。
いや待てよ? これはここで魔術を使ってツァトリーに威厳を見せつけるチャンス……!
そう思った俺は記憶から適当な魔術を引っ張り出してきて詠唱する。
「
するとすぐに魔術が発動し、地面から強風が吹いた。
その風によって勢いは減衰し、体勢を変えればふんわりと着地することが出来た。
「ネビュトスの言ってた勉強の成果がこれなんだね。よく出来ました」
「そうか? ありがとう。ツァトリーに褒められるのは嬉しいよ」
「ん。でもこれから褒めてばっかりだと思わないでね」
彼女は一度咳払いをすると、宣言をするかのように語気を少し強めて言った。
「ツァトリー先生との魔術訓練の開始だよ」
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