26:ツァトリー先生とバカ天使
今まであまり気にしていなかったが、今まで見た魔術には何らかの方向性、つまり属性が与えられていたものばかりだったはずだ。
無属性魔術といえば、モミジ――魔王の姿のときだ――が放った
「名前は
「大丈夫、元ネタは知ってるから。
詠唱すると現れたのは、もちろん
魔力をしっかりと、ギュッと固めるように込めて――放つ!
すると、矢が風切り音を鳴らしながら飛んでいき、岩が崩れるような爆音とともに岩を木っ端微塵に砕いた。
「ん。上出来。ネビュトスなら魔導書を読まなくてもいいし、名前を聞けばきっとイメージできるだろうね。ボクが教える必要はもうないかな。遠距離からの魔術の発動――遠隔術式も、多分軽々できちゃうよね?」
「多分できるだろうな。えーっと、
発動地点を遠くにイメージして中級炎属性魔術の
……初めて使う割には上出来だな。本で読んだことしかないのに。もしかしたら他のも問題ないかもしれない。
「ほら、やっぱりね。全く、こんなのできるのネビュトスくらいだよ……もう早速
そう言い残してツァトリーはまたしても光の粒子となって消え去った。
俺もそれを追うように
景色が一変すると、仁王立ちするツァトリーが俺を見つめて言った。
「上級
その問いに俺は自信を持って答える。
「あぁ。上級のやつについても頑張って見つけたからな、バッチリだぞ」
「ん、なら良かった。じゃ、ここからは実戦訓練形式で行くよ。
それは無属性魔術、
特別な契約を結んだ魔物を、異空間や別の場所から呼び出す魔術だ。
しかし……そんな名前の魔物を俺は知らない。果たして何が出てくるのだろうか。
そして地面で光る魔法陣から現れたのは、一対の翼を持つ――真っ白な天使だった。
「ぅ、ん……ここは……どこ……?」
ゆっくりとまぶたを開けたその少女は、儚げな表情を浮かべていた。
つやのある真っ白の髪を揺らし、首をかしげている様は天使のようににしか見えない。
「あ、ツァトリーパイセ~ン! 久しぶり~! 何億年ぶり~?」
「ん……相変わらずハクティノはうるさいね。あと別に何億年も経ってない」
「そう~? ……って何あの骸骨キモ!」
ツァトリーのことを
正直ここから「実戦訓練」に繋がる気がしないのだが、ツァトリーは何を考えているのだろうか。
「……次そんなこと言ったら殺すよ。ボクの主人にそんなこと言わないで」
「えっ!? あれが!? そんな訳無いってぇ~!」
「……殺す」
「ちょっと待ってって! ごめんってぇ!」
「はぁ……ほんと君のようなバカを相手にするのは疲れる。というわけでネビュトス。こいつを《支配》してほしいんだ」
突然こっちを向いたツァトリーが発した言葉は、全くもって予想だにしなかったものであった。奥にいる天使……ハクティノも驚いた顔をしている。
「えっ……こいつを《支配》?」
「えっ……こいつに支配される?」
どうやら俺たちの思いは合致して――はいなかった。間違いなく嫌がっているし、射殺さんとするほど侮蔑の視線を感じる。
「ネビュトス、さっきボクはなんて言った?」
「実戦訓練形式で、だったか」
「ん。ハクティノ、ネビュトスに勝てたら封印を解いてあげる。逆に負けたら支配される。分かった?」
まるで幼稚園児に語りかけるかのような、優しい声色で――表情は別だ――そう説明するツァトリー。
それに対してハクティノは苦虫を噛み潰したような顔つきになっていた。
「はぁ? こんな弱そうな
「ネビュトス。半殺し――いや九割殺しにしても構わない。どうせ死なないから」
「お、おう……分かった」
「ボクは一切介入しないよ。適当な場所で観戦してるから」
そう言った後、ツァトリーが小声で何かを呟くと地面に魔法陣が現れ、そこから椅子と机が出てきた。あとこの前渡したお菓子と紅茶も。
「範囲はこの島の森全域。ネビュトスは適当な場所に転移して、ハクティノはここからスタート。どちらかが敗北の宣言を出すまで終わらない。どんな魔術、魔法の使用も許可するけど、ハクティノがあの城に危害を加えたら許さない。その時点でハクティノの負け。……ルールはこんな感じ」
一息に言い切ったツァトリーは、紅茶をすすってお菓子を食べ始めた。リズムよくサクッ、サクッという音が聞こえてくる。お菓子……食べたくなってきたな。
「え、楽勝すぎじゃない? ほら、キモ
「チッ……じゃなかった。分かったっての。
さすがの俺もこいつの喋り方はなかなか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます