27:バカ天使と殺し合い(死なない)
転移を使えば、すぐさま景色は――あんまり変わってないや。差異は彼女たちの姿が見えなくなったくらいだな。
まぁともかく、あいつと
『ん。今から試合開始だよ。バカがそっちに向かってる。迎撃の用意をしといてね』
いきなり脳内にツァトリーの声が響いた。
ご丁寧に教えてくれたのは、俺に勝ってほしいから、いや勝ってくれないと困るからなのだと改めて理解する。
その言葉通り、次第に森がざわつき始めた。それと同時に何かが向かってくる気配も。
「
ツァトリーは俺にやらせなかったが、遠隔発動の他にも高等技術と呼ばれるものは存在している。例えば今やってる遅延発動とか。
説明しよう。遅延発動とは、魔術が発動する瞬間に使う魔力だけを使わず、発動する一歩手前で保持する技術だ。なぜそれをするかと言えば、空気中の魔力の流れとかで警戒されると困るから。舐めてかかって返り討ちにあっては無意味だからな。
「――死ねえぇぇぇ!」
その声が近くから聞こえた刹那、一気に全てを発動する。
「――ってうわあ!」
身体をボロボロにする濃霧が襲い、爆発する炎の槍が飛んでいき、渦が吸引して圧迫し、高圧の水の刃がとどめを刺す――そんなつもりで俺は攻撃を放ったのだが、どうやらその通りにはいかなかったらしい。
「いってて……何をするんだよ! キモゴミ
「うっせぇ黙れや。
つい頭に血が上ってしまったような感情になる。言ってから気づいたが、自分は極めて冷静だ。もはや俺の本能がそう言ったのだと理解した。俺はこいつが嫌いだ。
その怒りによってなのか、先程見たものより威力が――炎の渦巻く勢いが上がっている気がする。
岩を軽々溶かしてしまうこの魔術を受けて一体どうなるんだ?
「いだだだ! ムカつくムカつくムカつく……!」
……半ば予想していたが、やはり生きているようだ。
ムカつくのはこっちだ、そう思いつつ、次の行動を予測する。
「そろそろこっちのターンだ! 死ね
未だ渦巻く炎から、光輝く剣を携えたハクティノが飛び出してきた。
「そうくるか。
俺は防御を選択した。すぐさま地面から炎が壁を作るように吹き出す。といっても初級の魔術だけど。
俺がそうしたのにはいくつか理由がある。一つめは炎に少しでも恐怖を植え付けるため。二つめは――っと、炎に焼かれるのを顧みず突っ込んできたようだ。炎の壁には実体がないからな。
「死ねぇ!」
大きく剣を振りかぶって飛んでくるハクティノ。俺はそれを――
「
転移することで回避した。
本当に何も考えていないため、先程の場所からすぐ近くなのか、それともキロメートル単位で離れているのかすらわからない。
ただ
「ふむ……どうするべきか」
上級魔術をいくつも食らってもなお、彼女は無傷だった。つまり耐性がとても高いか、再生能力が高いかのどちらかなはず。しかし痛みに喘ぐ声が聞こえたことから考えれば、耐性が高いというわけじゃないのかもしれない。
「あっ……いい案を思いついたぞ」
俺は内心でほくそ笑む。これならば撃破が可能だろう。
「
これまた初めて使ったものだが、とても上手くいった。
今回は
この魔術を四方に置くことで、絶対的な防御になるだろう。それに魔力を感知させることでこちらへ誘導する狙いもある。
「――さてはこっちだな
怒り狂った声色が遠くから聞こえてきた。やはり魔力には敏感なんだな。
「適当に挑発するか。
声が聞こえてきた方向に炎の槍を放り投げる。しかし膂力が強いため、かなりの勢いで飛んでいく。
「そんなひ弱な魔術で殺せると思ってのかクソ雑魚!!!」
その言葉と同時にハクティノは姿を現した。光り輝く剣を固く握りしめ、俺をバラバラにしようという強い意志が感じ取れる。
いやはや、なかなか挑発が効いてるじゃないか。そういうのは往々にして足元を掬われるんだぞっ。
「
その剣で攻撃するのかと思いきや、使ったのは
――しかし残念。そのほうがかえって都合がいい。
「死ねっ!」
無抵抗になった俺に、思いっきり剣を振りかぶり――カンッという乾いた音がして跳ね返された。
「なっ……!?」
驚きに大きく目を見開くハクティノ。今がチャンスだな。
俺は耳元でささやくように詠唱する。
「
次の瞬間、周囲には無数の魔法陣が輝き始めた。その全てはハクティノに向けられている。
ありったけの魔力を込めると、魔法陣が高速で回転し始め、準備が完了したことを告げた。
「――っ!?」
そして爆音とともに――爆ぜた。
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