43:再会

 征服か死か——その言葉に、この広い部屋が静まり返った。だが苦痛には感じない……って、アリアがクスクス笑ってる。国王の顔が面白かったからなのだろうか。いいセンスしてるね。これからやらないようにしてほしいな? 雰囲気壊しすぎだよ。


「何? そんな戯言を言うためにここまで来たのか? 面白くもない冗談をな」

「本気さ。この国は腐ってる。あの女神様が仰ったのだから事実だ」

「貴様、教会の者でもないのによくもまぁそんな嘘を吐けるな!」

「事実なんだがな……というかあんた、俺に対抗する手段があるのか? 俺は貴族じゃないから制裁も与えられない。俺の領土は遠い海の向こう。さぁどうする?」


 その言葉に、苦虫を噛み潰したような顔になる。こんな愚物でもそれくらいは理解できたようだ。


「ぐぬぬ……そ、そうだ。その女を置いていけ。そうすれば許してやる」


 ……こんなんだからこの国は最悪なんだろうな。悪役の常套句を言い出されてしまった。流石に呆れても仕方ないだろう。


「あっそう。そこで多少許しを乞うとかならまだよかったものを……生者晦冥リビングキル、《支配》」


 目の前のバカが黒に飲み込まれた刹那、扉が大きな音を立てて開いた。俺は敵襲かと思い警戒する。しかしそこにいたのは――


「陛下っ! 忠臣ハクティノでございますよ!」

「……やっと出てきたな小娘」

「酷くないですかぁ!?」


 元気ハツラツに出てきたハクティノであった。後ろにはひっそりとキルボネもいる。手を振ると振り返してくれた。あら優しい。


「で、大公閣下は何をしてらしたので?」

「からかわないでください陛下……! だってキルボネが『舐められないようにするには大公くらい言え』って言ったんですもん!」

「当タリ前ジャナイ小娘。ソレニ我々ハ皇国ノ一員。貴族制度クライアッテモオカシクナイデショウ?」

「それはキルボネが正しいな……」


 全身をブンブン動かして弁解するハクティノ。うん、バカっぽさは抜けてないな。なんか安心したよ。


「それでですね、我々は色々な方法を使い権力者たちにオシアス皇国への忠誠を誓わせました。それにより皆様は快適な旅になったと思います。しかしここ、王都の支配は少し難航しておりまして……陛下のように魔術的な支配が出来ないので地道に買収などをしてきました――つまり、陛下のご指示があれば今すぐにでも王都の征服は完了致します」


 跪きながら報告されたのはかなりの衝撃を受けるものだった。ハクティノには散々言ったが、実際のところは任せて大正解の結果となったな。これからもパシ……諜報活動に専念してもらいたい。


「素晴らしい。では向かおう。案内したまえ」

「あ、陛下。あのおっさんはどうするんですか?」


 そう尋ねてきたのはアリアだ。ふむ、どうするか。


「良い案があります。貴族どもをここに集めましょう。そして王の口から支配宣言を出させるのですよ! 次にその首を落とし、オシアス皇国の恐ろしさを見せつける――! 最高です!」

「いいねハクティノ。それ採用。じゃあよろしく」

「わっかりましたー!」


 そして叫びながらぴょんぴょん跳ねて部屋を走って出て行ってしまった。キルボネは華麗に礼をしてからの退出。さすがだ。


「オ、オォ……」


 後ろから声がしたかと思えば、それは国王だった。


「今から命令する。聞き逃すな?」


 そう問うと、国王はコクコク頷いてこちらの目を見た。聞く姿勢ってやつだろうか。


「今からここに貴族を集める。そしてそいつらに言うんだ。『ヒシズ王国はオシアス皇国によって支配された。我はもう王ではなく、貴様らも貴族ではない』、と。出来るな?」

「ヒシズ王国はオシアス皇国によって支配されタ。我はモウ王ではなク、貴様らも貴族デハなイ」

「……まぁいいよそれで。じゃあ少し待ち時間だな」


 [地獄行きタイムリミットまで――残り9日]

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