44:支配宣言

 場所は変わって謁見の間。そこは金銀財宝を散りばめましたと言わんばかりに豪華絢爛で贅沢の限りを尽くした部屋。百人ほどは入れるだろうこの広い空間に、それだけの宝石類があることはこの国の腐敗状況を如実に表しているのだろう。


 そんな空間の一番高いところ――つまり玉座に俺はいる。俺の右側には国王が侍っている。それだけで身分の違いがわかるというものだ。


「陛下。買収した貴族どもを連れてまいりました」

「よろしい。入れ」


 大きな扉の向こうから聞こえてきたそれはハクティノの声。許可を出せばゆっくりと扉が開いた。

 その奥には数十人の人影が見えた。今まで見た中で一番良い服を着ているのは一目見れば理解することが出来た。


「良いか貴様ら! このお方はいと貴き至高の帝。生命の輪廻から外れ、世界の意志を代行せし者。その名をオシアス皇国皇帝、ネビュトス皇帝陛下と仰るのだ!」


 ハクティノが仰々しく言い放つと、俺は彼らに聞こえるように呟く。


「我は貴様らに選択肢をくれてやる。服従か、死か――行動を以て示せ」


 それはふるい。選別するための基準だ。


 ここで跪く者は愚者。ただ反抗する者も愚者。立って理論的かつ建設的な議論を始めようとする者のみが賢者なのだ。もちろん保身に走るようなら容赦なく殺す。

 

 俺は国を思う愛国心を持つ者を求めているのだ。


「陛下、恐縮ではございますが、なぜ我が君は陛下の横におられるのでしょうか?」


 たった一人、立ち続けた男がいた。彼は冷静沈着な表情でこちらに問いかけている。


「答えよう。それは俺がこいつを服従させたからだ。な?」

「ヒシズ王国はオシアス皇国によって支配されタ。我はモウ王ではなク、貴様らも貴族デハなイ」


 その言葉に対し、男が答えようとした瞬間、怒号がいくつも飛んだ。


「ふざけるな! 俺が貴族じゃないって!?」

「そうだ! ネビュトスだったか? どうせ魔物かなんかだろう! 出ていけ!」

「どこの馬の骨とも知らぬ者をなぜ! おぉ陛下、なぜそのような事を!」


 多種多様なバカが調子に乗って文句を言い始めた。男は呆れて顔に手を当てている。「見るに堪えない」とでも言いたげだ。俺もそう思う。


「静まれ。心臓停止ハートストップ


 その中でも一番うるさいやつの心臓を――息の根を――止めてやった。こいつらの顔がないと貴族としての利用価値がなくなってしまう。せめて見た目だけは綺麗にしておかなければいけない。


「っ……!?」


 その現象に、皆が静まり返った。喋ったら死ぬのだと嫌でも理解したのだろう。


「……では陛下。質問の続きをさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。構わない」

「では、なぜ我々は支配されるのでしょうか。この国が悪事を働いているからなのでしょうか」

「その通りだ。我も癪だがかの女神の命令でな。実際にこの国を見て回り、価値がないどころか邪魔でしかないと判断したため、征服及び蹂躙を決定した」

「我々がその運命から逃れられることは叶わないのでしょうか?」

「なるほど。安心したまえ、我も悪魔などではない。清き心をもつ者は安全な場所と生活を提供することを約束するつもりだ――あぁ、もちろん祖国に帰ることは出来ない。それは承知してくれたまえ」


 彼らにとって、その言葉は希望の光だったのだろうか。先程よりも深く、悪意が透けて見えるほどに跪きはじめた。残念、もうチャンスはないよ~。


「寛大な心に感謝致します、陛下。これ以上粘っては機嫌を損ねてしまうでしょう。私も引き下がることにします。どうかこの愚か者どもを処刑し、ヒシズの民を一人でも多く救ってくだされば幸いでございます」

「もちろんだ。そなたの国を思う心、気に入った。名を聞こうか」

「リムニル・ガグンラーズと申します」

「リムニル。これからよろしく頼む」

「こちらこそでございます陛下」


 素晴らしい人材を見つけてしまったな。彼は間違いなく聡明だ。軍師として役に立つことだろう。

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