45:虐殺と蹂躙
ここはヒシズ王国のとある街。小さいわけではないが、決して大きいとは言えない。そんな街。辺りは少し薄暗く、一時間もすれば夜になる頃。
俺は旅人風の格好をし、深く帽子を被って顔も見えないようにしている。いわゆる潜入ってやつだな。
「止まれ。あんた何者だ?」
「お、俺の村が骨に襲われて……命からがら逃げてきたんだよ……」
「はっ、そうかよ。見たところ犯罪者のようには見えん、さっさと入れ」
「っ……」
助けてもらえなかった――そんな失望を隠しきれない表情で村へ入っていく。
ちなみに村というのは本当にある。ただ襲われてはいない。金を渡して襲われたことにしてもらったのだ。具体的には家を少し壊したり血みたいなものをつけたり。実際はわりと快適な暮らしをしてもらっている。
「だ、誰か……助けてくれ……」
道ゆく人に聞こえる程度で声を出し、弱々しく手を伸ばす。しかし皆は冷たい視線を向けるのみで何も言わない。
しかし、遠くから心配そうに俺を見つめる少女が一人。その目には「どうして皆助けてあげないんだろう」と言わんばかりに疑問が宿っている。その少女はしばらく俺を見ていたが、飽きてしまったのか部屋の方へ行ってしまった。
「……これでここの全域くらいは周ったか? ま、外れだったな。そろそろ作戦を――」
その時、ふいに声をかけられた。
「その……お兄さん。困ってるんですか?」
そこにいたのは先程の少女だった。
なんだか一筋の希望が見えた気がする。
「そうなんだよ。俺は近くの村から来たんだ。あそこが骸骨に襲われてしまって必死に逃げ出してきてさ」
「だったらうちに来てくださいよ! 皆ひどい人ですけど、うちなら守ってあげられますからっ!」
「本当に……いいのか?」
「はい! ちゃんとパパとママに許可はとりました!」
大当たりだ。やはり女神は世界を見下ろしすぎている。あいつは砂浜にある一粒の黄金を見つけられないようだ。神のくせして節穴だな。
「金はあんまり支払えないけど、それでもか?」
「それでもです! お金なら銅貨数枚でいいですよ」
「それはいくらなんでも安すぎる! 銀貨なら数枚あるぞ」
「銀貨は出ていった後に取っておいてください。ほら、行きますよ」
少女は無理やり俺の手を握って足早に歩き始めた。向かう先は先程俺がこの子を見つけた場所。やはりあそこが彼女の家のようだ。
「ママパパただいまー! お兄さん連れてきたよー!」
「いらっしゃい。広い家じゃないけど、ゆっくりしていっとくれ」
「俺はあんたを歓迎するよ。温かいコーヒーでも飲むか?」
そのコーヒよりも、彼らはずっとずっと暖かかった。
◇
――それから一夜明け、財布を確認する。
俺はわかりやすいように銅貨も銀貨も五枚ずつと金貨を一枚入れておいた。歓迎された家が詐欺集団であれば盗られるだろうと思ったからだ。殺されそうになっても気付けるわけだから問題なしだ。
その結果はもちろん全て揃っていた。十一枚きっちりだ。
俺は
『ツァトリー。リブライトは三人だけだった。作戦を開始してくれ』
『了解。ちゃんと守ってあげてね~』
『もちろんだ』
会話が終わると同時に、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「
どうやら見張りの兵が気づいたらしい。そこだけはしっかりしているんだな。
――まぁ、そこからは大惨事だった。いくら気づくのが早かろうと、愚鈍で弱い民たちには倒せる相手ではない。
「きゃあ! 誰かたすけっ――」
「死ね! 死ね!」
「ままー!」
窓から外を覗き見れば、建物は燃え、人々の血と肉がそこら中に転がり、目の前で人が死ぬ――地獄とはこの事だろう。
「ど、どうしてこんなことに……」
「あなた! どうするのよ!」
「ママ……パパ……」
いけないな。彼らを怖がらせては。優しい心を捨てなかった者にひどい仕打ちは出来ない。
「大丈夫ですよ。ここを襲ってはきません」
「どうしてそんな事がわかる!」
「パパ!」
「単純です――俺がこれの元凶だからさ」
できるだけ恐怖を与えないよう、笑顔を作って言ってみた。しかしあんまり効果はなかったらしい。
「なっ……!? どうしてこんな酷い事を!」
「俺はこの国を乗っ取った。ここはもうヒシズ王国ではない。オシアス皇国ヒシズ領だ。ならば俺がルールだ。腐った人々は死に、良い心をもつ者だけが生き残る。いわば選別だ」
怖がらせないように優しい口調で説明する。うーむ、やはりまだ難しいな。
「……だからあなたたちは襲われない。彼らは上官には従うから。あなたたちは優しかったから」
いいか? これが俺の異世界征服だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます