10:騒がしい臣下の臣下

「いやぁ……『ツァトリー様に何をした』って言われても。俺はなんやかんやで承諾を得てスキルで支配した、ただそれだけだぞ」

「ツァトリー様を……!? あの偉大なるお方を支配――あだっ!?」


 般若の如き形相で出てきたはいいものの、段差に足をひっかけ無様に転んだ。しかも顔から。


「くそっ、貴様何をする! このツァトリー様第一の臣下であるヴィヴィエルアと知っての狼藉ろうぜきか!?」

「はえー、ヴィヴィエルアって名前なのか。てか俺は何もしてねぇ」


 勝手に怒るわ名前を教えてくれるわで面白いな、こいつ。

 イジリ甲斐がありそうだ。

 ……ってかこいつツァトリーの配下だったのか。ちょうどいいしお使い頼んじゃお。


「あのさぁ、ツァトリーがお菓子を持って来いって俺をパシリにしてんだよね。ヴィヴィエルア、ちょうどいいから手伝ってくれよ」

「おぉ……! さすがツァトリー様、こんな卑劣な骸骨相手にも屈すること無く、その偉大さは変わらぬどころか増す一方……!」


 なんだこいつ、トリップしてやがる。


「とにかく! 早く! お菓子を探しにいけ! 鍵は俺が持ってるから!」

「――っ!? 貴様、を持ってるのか!?」

「あぁ、これだろ?」


 そう言ってポケットから鍵を取り出す。ツァトリーを知るならばこれも知ってるだろうと思ったが正解だったようだ。

 そんな鍵はやはりまだ煌めきは失われておらず、冷ややかさも変わっていない。


「間違いない、本物だ……しかもこれはツァトリー様が近くにいる証左! 早くそれを使え!」

「いやだから。お使い、わかる? お菓子必要、わかるね?」

「なるほど! では行ってくる!」


 そう言い残すと目に見えぬ速度で食料貯蔵庫の方へ消えた――と思ったけど転んでる。なるほどポンコツ、か。

 あ、起き上がった。消えた。


「はぁ……」


 こんな調子じゃ溜め息もつきたくなる。

 しかしツァトリーを探し回って迷子になられては困るので俺も追いかける。目的地が一緒なら問題ないだろう。


 ヴィヴィエルアは廊下の方へ行ったが、常識的に考えて食料を扱う食堂の横に貯蔵庫がないわけない。厨房の奥へ入り、少し歩けば到着だ。


 さぁ開こう、そう思いドアノブを回すが開かない。

 もしかして。


「鍵が閉まってる、のか……?」


 疑問形にしたがまぁ閉まってるんだろう。

 困ったな、俺は鍵なんて――


「持ってた。……これ使えるのかな?」


 仕方ないので煌めく鍵を鍵穴に挿入する。

 鍵はスルッと入り、ガチャっと回せば開いた音がした。


 早速ドアノブを回し扉を開ける。


 中には大量の食料の山があった――あぁ、もちろん箱詰めはされてるけれど。品名が書いてあるのでわかりやすい。


「お菓子系はどっこかな~♪」


 ちょっとした歌を口ずさみたくもなる。それに合わせ扉も閉まる。

 なんだか嫌なものを感じて後ろを振り返ってみる。


「ん、やぁやぁネビュトス君。お使いご苦労」


 そこには俺をパシリにしたツァトリーが呑気にだらけてた。


「ど、どういう事だ?」


 先程まで普通の扉だったのになぜか最上階へと繋がっている。不可思議でしかない。


「ん? これの事かい? これは天空門って言ってね。簡単に言えば鍵で開けた場所とボクのいる場所を繋いで転移する事ができるシロモノさっ」


 やけに自慢げなドヤ顔してんな、おい。

 でもまぁ確かにすごいものはすごい。それは認めよう……口にはださないけど。

 だがあまりのすごさにアリアがすごい表情してる。びっくりし過ぎじゃない? 顔に出しすぎだよ。


「さぁ、箱を持ってこっちへきたまえ。帰るまでがお使いだよ?」

「なんかどっかで聞いたことあるセリフだなぁ……」

「えっほんと!? ボクが生み出した構文だと思ったのに……!」

「いやそこじゃねぇだろ」


 ツァトリーってよくわかんないな、と思いつつも箱を持って門を向く。

 そして歩き出した時、何かドスドスという音が聞こえた。


「――ん? 今何か物音が聞こえなかったか?」

「ん、そうかな。ボクには聞こえなかったけど」


 ドスドスドス……だんだん近づいてる気がする。


「ん。今のはさすがにボクにも聞こえた」

「やっぱりな? 一体何が来るってんだ……?」


 待つこと数十秒。ついに――


「ツァトリー様~!!!」


 壁をぶち破って登場したのはヴィヴィエルアであった。

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