29:ツァトリー先生と不死者創造

 おかしい。とても奇妙で不思議でおかしい。


 先程まで人を舐め腐ったような態度をとっていたやつが、俺のことを「偉大なる陛下」などと呼び始め、平身低頭し、誠心誠意仕えるとまで言う始末。これが正常なわけがない。

 ツァトリーもお手上げならばなおさら手がつけられない。


「あーうん、分かったからさ。仕えるのは認めるからさ……ちょっと練習に付き合ってくれない?」

「もちろんでございます陛下! いかようにでもお使いください!」


 ずっとこの感じかぁ……皆がフレンドリーすぎて「皇帝」の扱い方をされるのが逆にむず痒い。


「ツァトリー、結局どういうのをやろうとしてたんだ?」

「ん。とにかくいっぱい創造して、いっぱい戦わせての繰り返しのつもりだったよ」

「じゃあこういうのはどうだ? ハクティノを標的として、俺は不死者アンデットを使って戦う、ハクティノは魔術で戦うという方法……いいと思うんだが」

「ん、いいね。ボクはアドバイザーとしてネビュトスに教えるよ」

「素晴らしい方法であると思います! いつでも始めてくだされ!」


 ハクティノのヨイショが凄すぎてもはや気圧されてしまうが、なんとかもちこたえて訓練を始める。


「創造:〈骸骨兵隊スケルトンアーミー〉。まずはこれで腕試しだ」

「はっ!」


 勢いよく相槌をした直後、妖しく光る魔法陣から十体の骸骨スケルトンが現れた。そして彼らが動き出した刹那――目にも止まらぬ速さで全ての骸骨スケルトンを粉微塵にした。


「おぉ、さすがだな。じゃあ次は……創造:〈呪骸兵隊カースドデスアーミー〉」


 そう呟けば、またもや地面から十体の武装した骸骨が現れた。


 骸骨兵隊スケルトンアーミーと違う点と言えば、これは上級不死者アンデットであることと、武具が禍々しく、そしてあやしく紫色に光っていることだろう。触れたら呪いにでもかかりそう……ではなく、実際にかかるのだ。だから肉弾戦は禁忌肢なのだ。それを見破れるかどうかが試される。


 ハクティノは呪骸兵隊カースドデスアーミー一瞥いちべつすると、右足で踏み込み近づこうとして――止まった。呪骸兵隊カースドデスアーミーが襲いかかる中、大きく跳躍することで後退し、冷静に魔術で掃討した。


「お見事だな。そうだツァトリー、何か言いたいことはあるか?」

「ん。呪いへの対処という面では完璧だった。ただ見破るのが遅いね。瘴気を放ってるのだから、一瞬で気づけるはずだよ。ネビュトスの采配は素晴らしいものだよ」

「はっ、申し訳ございませんでした! 陛下の思し召しを理解することが出来ず、改善点をここまで言われてしまうなど……!」

「まぁまぁ。気づいただけ良かったってことさ。次からは気をつければ良い。反省も出来てるんだから」

「ありがたきお言葉……! 陛下の寛大なる御心に感謝します!」


 その言葉にツァトリーはむすっとした顔になった。


「なんかボクが悪いやつみたいになってるじゃん……ネビュトス、そんなこと思ってないよね……?」

「もちろんだとも。ツァトリーは優秀だし自慢の配下だ」

「えへへっ……!」


 嬉しそうな顔でなによりですよ……


「じゃ、次はこういうのでいこう。創造:〈幽霊術師ゴーストウィザード〉・〈餓者髑髏ハンガースケルトン


 すると二つの魔法陣から二つの人影が現れた。


 片方は長い杖を持ち、半透明で魔女のような格好をしている。少し耳をすませばケタケタという笑い声が微かに聞こえた。

 そしてもう片方は見上げるほど高い大きな骸骨。その正体は埋葬されなかった死者たちの骸骨や怨念が集まって巨大な骸骨の姿になったものだ。


 それとどちらも上級不死者アンデット。中級以下はもう出さないかもな。


「行け、下僕たちよ。その者を無力化せよ!」

「まずは術師から! 爆裂破散エクスプロージョンッ!」

「ケケケ! 氷塊乱舞アイシクルダンス!」


 先手をとったのはハクティノ。幽霊術師ゴーストウィザードよりも先に魔術を発動することができた。


 爆裂破散エクスプロージョンは目標の頭上から攻撃する魔術であるのに対し、氷塊乱舞アイシクルダンスはある程度の範囲と操作性を持つ魔術だ。


 しかしハクティノの前では意味を為さない。襲いくる氷塊を高速で移動することで躱し、無傷で全てを回避する。それでも息切れは一切することはない。

 幽霊術師ゴーストウィザードが困惑し、恐れを感じ始めた瞬間、頭上に幾重にも連なる魔法陣が現れた。ハクティノに気を取られている間に魔力は十分に供給され、爆裂破散エクスプロージョンが発動する。


「まずは一体撃破……!」


 数秒間持続する厄災の如き魔術には目もくれず、ハクティノの隙をずっと狙っていた餓者髑髏ハンガースケルトンの攻撃を軽く躱す。それどころか逆に叩きつけられた拳から身体を軽い身のこなしで登っていき、すぐに肩の上に辿り着いてしまった。


「ウオオオ……!」


 怨嗟の声を上げながら必死に振り落とそうとするも、ハクティノは体勢を一切変えない。足をピンと伸ばし、手をつくこともせず、だ。


「そんなに飢えてるの? じゃあ、岩でも食べさせてあげる! 岩食いの刑ロックラース!」


 なぜか口調が変わっているハクティノ。

 そんな彼女の「岩でも食べさせてあげる」という言葉の通り、餓者髑髏ハンガースケルトンの頭を囲うように岩が現れた。そして頭へと、岩が。それによって首から上の一切が岩に覆われてしまい、そこからだんだんと身体ごと


 すぐに全身は石へと変わり果ててしまい、適当な魔術を当てれば簡単にボロボロになって崩れ去っていく。


 その様を見届けること無く、ハクティノはこちらへ走ってきて言った。


「陛下! 状況終了でございますっ!」

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