18:戦えば友達になれるよ

 鬱蒼とした森の中――俺がモミジと出会った場所。ツァトリーはその近くの木陰に隠れ、ずっと暗い顔でうつむいていたので、俺は触れずにヴィルに連れてきて貰うよう頼んだ。


 その一方、俺ら三人はかなり気まずい雰囲気だった。

 初対面であるモミジに対し、アリアはどう接して良いか分からない様子だった。ここは俺が一肌脱ぐしかないな。


「アリア、モミジの扱い方がわからないんだろ?」

「えっ、もしかして私の心でも読みました? その通りですよ……!」

「そうでござったのか。心配ないでござる。拙者もネビュトス殿に仕える者でござるし、怖がる必要などないでござる」

「い、いえ……そういうことじゃないんです。どんな話をすればいいか分からなくって……」


 アリアは気を遣わせてしまったことに申し訳無さそうな顔をしていた。

 その結果さらに気まずい雰囲気になってしまう。


 仕方ない。思いつきだが、これをやってみるか――


「アリア。モミジと一戦交えてみないか?」

「……えっ!? 無理ですって! 絶対強いじゃないですかぁ……!」

「そんな弱気になってどうする。やってみないと分からないだろ? それに、戦えば友達になれるよ。モミジ、それでいいか?」

「あぁ。アリア殿、よろしくお願い申す!」

「えええぇぇ! し、しょうがないですね……! よろしくお願いします……どうかお手柔らかに……」


 戦い方には性格が現れるものだと俺は思っている。だから俺は一戦交える、という提案をしたのだ。


 かくして、神薙流の剣客・モミジと、元メイドで今もメイドなアリアの模擬戦が始まったのであった。


「間合いはどうする? 俺としては数十メートル離れた方がいいと思うんだが」

「アリア殿は剣を持っていない、ということは魔術師なのでござるか? ならばそれでいいでござるよ」

「了解です――あ、これくらいでいいですかね」


 アリアが離れたことにより、2人の間には数十メートルの間合いが出来た。


「両者位置についたな? では――始め!」


 俺の合図で動き出したのはモミジだ。

 さすがの反応速度、アリアは迎撃が一拍遅れてしまった。


火炎突盾フレア・シールドバッシュ!」


 アリアが選んだのは炎の盾による進路妨害だ。

 中々いやらしいことをするじゃないか。


 しかし走るモミジは速度を緩めること無く突っ込み――抜刀、盾を一閃。納刀。

 目にも止まらぬ速さでその一連の動作をし、間合いをどんどんと詰めていく。


「ちょっ、嘘でしょ!? 炎雨フレアレイン!」


 次にアリアが使ったのは、サッカーボールほどの大きさの炎をいくつも出現させる魔術のようだ。そしてそれらは勢いよくモミジへと放たれた。


「さすがにこれで足を止めるはず――ってえぇ!?」


 思い切りほくそ笑んでいたアリアだったが、一瞬でその表情は恐怖や驚きが混ざったようなものに染められる。


 その原因であるモミジは、襲いくる炎の中で自分に当たりそうなものだけを切り捨てていた。


 かなりの速度で迫る炎を切ることもすごいのだが、自分に当たりそうなものを、必要最低限の数・動作で切るという決断力。

 それはもはや神業に思えるものであり、素人目にもかなり洗練されているのがわかる。


「これなら……! 落岩ロックフォール!」


 アリアが希望に満ちた顔で使ったのは、殺人熊キラーベアほうむった魔術、落岩ロックフォールであった。


 押しつぶすつもりはなく、早めに使うことで足止めを目的としているのだと思われる。

 それにこれなら切ることは叶わぬ大きさだろう。


 さぁ、どう来るか……きっと俺とアリアの心情は一致しているはずだ。


「よっ……と」


 それに対してモミジは――数メートルある岩を飛び越した。

 アリアが驚いた顔をする中、空中にいるモミジは刀の持ち方を変え刀身を下に向けた。


 それから察するに、アリアの首元に突き刺すのだろうか――いや、彼女はその道のプロ。寸止めをするつもりだろう。


 モミジは重力によりだんだんとアリアへと近づいていく。


 空中に飛び上がったことに反応出来なかったアリアを見て、モミジは勝ちを確信したような顔をした。


 そして刀身とアリアの首との距離が1メートルもなくなった刹那、アリアは刀を素早い動きで――


「っ!?」


 モミジは露骨に動揺している。

 しかしさすがは本職、すぐに切り替え首を狙うも、アリアは間一髪で再び避けた。


 その次も、次も、次も。アリアは全てスレスレで避けていく。

 横に動くことで躱し、しゃがむことで躱し、バク転をすることで躱し――そうして全てを華麗な動きで避けていく。


「ど、どうして当たらないのだ……!?」

「ふっ、ふっ、ふっ……」


 まるで先程のアリアのような、恐れに満ちた顔を浮かべるモミジに対し、アリアはそんな言葉なぞ意味がないと言わんばかりだった――いや、避けることに集中すしすぎてそんな声は聞こえてすらいないのだろう。


 しかしそれは唐突に終わりを迎えた。


「――っ!? あだっ!」


 避けることに、つまりは刀に集中しすぎて足元がおろそかになっていたアリアは、地面に落ちていた石ころにつまずいて倒れてしまったのだ。


 思わぬ好機に頬を緩めたモミジは、仰向けに倒れたアリアの首の横に刀を突き立てた。


「勝負アリ、でござるっ!」


 それは半ばヤケクソというか、無理やりというか。


 何はともあれ勝ったのだ、とモミジは勝鬨かちどきの声を上げた。

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