7日目:不死者の皇帝はシトルイン王国へ向かう

51:実力主義

 ここは鬱蒼とした森――などではない。荒れ果てた荒野だ。それなのに気温は低く、雪すら降りそうな北国。


 しかし寒さはもとより感じないし、歩きづらいなんてこともない。なぜならば、俺たちは今、空を飛んでいるからだ。


「あ、陛下! 街が見えてきましたよ!」

「じゃあ、そろそろ降りようか」


 ゆっくりと速度を落としていき、分厚く頑丈そうな城壁の前へと着地した。その時、門番と目があってしまった。


「な、何者だ!」


 いきなり目の前に人が落ちて来れば、そんな反応になるのも必然だろう。すまないね、ほんと。


「身分証はない。流浪の者だ。実力はあるから入れてくれ」


 きっとこんな事を他の国で言えば――時代すらも関係なく――頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げるか怒られるかのどちらかだろう。しかしそれがまかり通るのがここ、シトルイン王国なのだ。


「そうか。ならそれを証明してみせろ」


 俺は待ってました、と言わんばかりに魔力弩砲マナバリスタを使い、城壁に大穴を開けて見せる。


「これでどうだ?」

「し、失礼しましたああ!」


 門番の男はペコペコと平謝りし、中に入るように促した。


「いやぁ、楽だねぇ。これであんまり人を殺さずに済みそうだ」

「やっぱりおかしいですねこの国……私、感覚がおかしくなっちゃいそうです」

「拙者からすればありがたい。強者と戦う機会があり、殺さなくてもいい。理想とすら言える!」


 アリアは半ば呆れ気味の様子だが、モミジは目を輝かせ、拳を固く握って熱く燃えている。……ま、楽しそうでなによりだ。


「ボクはつまんないかなぁ。どうせ魔術があればみ~んなボコボコにできちゃいそうだし。あくまで物理的な戦闘であれば強い人もいると思うけどね?」


 ツァトリーはハナから期待していないようだった。実際俺も魔術的に強い人はいなさそうだと考えている。


 肉体はある程度同じ世界での戦いだが、魔術は人によってそもそもの土台が違う。俺やツァトリーなんかは特にそれが顕著と言えるだろう。


「おう兄ちゃん。さっきの音はあんたのせいか?」


 そんな感じで駄弁りながら歩いていると、一人の男が――いや違う、後ろに数十人いる――話しかけてきた。


「あぁ、そうだが。決闘でもする気か?」

「そうだな。もちろんだろ? 知らない強者と戦えるならばこの国のやつらは皆挑みに来る。というか、分かっててあんな派手な事したんじゃなかったのか?」


 ……早速裏目に出てしまったようだ。どうせすぐに終わる戦いだろうし別にいいけどさ。


「分かった。じゃあ始めよう。魔術の使用はありだな?」

「当たり前だ。持ち得る全ての力を使って戦うのがシトルイン流ってもんよ」

「ふーん。気絶ブラックアウト


 さきほど「人を殺さない」ということにしたばっかりなので、とりあえず気絶させておく。


 うむ、やっぱり魔術が一般的に使われていなさそうな印象を受けるな。大抵の魔術は人に使えば殺しかねないし、そういう側面もあって辺りの人々が一様にムキムキなのだろう。


「すげええ! あいつ、一瞬で気絶させたぞ!」

「もしや見えない速度で何かしたのか!?」


 どうやら頭の方もムキムキなようだ。俗に言う脳筋ってやつ。どう見ても魔術だろう――ってそうか。あまり使わないから知らないのか? にしてもではあるんだけど。


「ほら、かかってこいよ! 全員相手してやる! ……ほら、皆も手伝って。俺だけじゃ捌ききれない」

「分かりましたよ。しょうがないですねぇ」

「ならば拙者に任せてほしいでござる! 峰打ちでも気絶には十分な威力でござるからな!」

「ボクは適当に感電でもさせておくよ。はぁ……」


 三者三様の反応をしつつ戦闘の準備を始めた。相手は二十人くらいか。彼女らの実力を考えれば、あっけなく終わってしまいそうな気がするね。

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