50:さぁ行こう、シトルイン
「はぁ……もうこの国もほぼ征服、いや破壊完了だな」
死体には背を向け、空を見上げて呟く。
「……拙者はもう、こんな国にいたくないでござるよ」
「そうだろうな。今は目を背けていてもいいさ。次の目的地であるシトルイン王国は、人々が強者に従うことで国が周っている。きっとモミジも退屈はしないはずだ」
「そうでござるか。……それでは失礼するでござる」
そう言って彼女は俺の影へと沈んだ。
これは影の中に空間を作り出す魔術で、様々なものを隠しておける。
それに一度空間を作ってしまえばそれ以上の魔力を使わないのだ。その代わり、最初に使う魔力が多いのが難点ではある。俺にとっては問題ないんだけどね。
「さてと。明日には出発、いや今日でもいいな。まぁとにかく。一旦城に戻るとするか。
一瞬で景色は移り変わり、見慣れた場所へと移動した。目の前にはツァトリーやヴィル、それに茶髪の男――リムニルもいた。
「陛下、お疲れ様でございます。此度はどのようなご要件で?」
「俺はそろそろシトルインへと出発しようと思っている。そのためツァトリーを呼びに来た」
「お、ついにボクの出番か。ずっと裏方だったから退屈だったよ~」
「それは申し訳なかった。ツァトリーにしか頼めない仕事だったものだから、さ」
謝っている気持ちも全面に押し出しつつ、信頼しているんだよと感じさせるような言い方だ。その効果は絶大だったようで……
「ま~そうだよね。ボクはすごいもん。ネビュトスに信用され、優秀だと思われるくらいだもんね! えへ、えへへ……!」
「ツァトリー様、どうか落ち着いてください……」
「リムニル、諦めろ。こうなったら十分くらいはこのままだ」
頬を赤らめ、悦に浸ってしまった。聞く耳を持たず、自分の世界へ小旅行してしまっているようだ。まいっか。
「ツァトリーは置いておいてだな。リムニル、ヴィル。シトルインについて最新の情報を踏まえて教えてくれ」
「では私から概要について説明させていただきます」
そう名乗り出たのはリムニルだった。
「シトルイン王国は完全に実力主義制で成り立っている国です。上層部の人間は強者しかおらず、その上には強さと賢さを兼ね備えた者のみで構成されており、ヒシズ王国とは違い無能ではありません。しかし弱者は奴隷と同等あるいはそれ以下の扱いを受けることになります。町中でもきっとその異常さが際立つでしょう」
実力主義と言えば聞こえはいい。しかしそれを国の規模まで拡大するとこんな悲惨なことになるのだ。実際にこの目で見ていないのに語るのも少しおかしいが。
「では次に報告をする」
タイミングを見計らったのか、話が終わってすぐにヴィルが口を開いた。
「どうやらヒシズ王国にはシトルイン王国の諜報部隊がいたようだ。マスターの発動した結界によりそのまま脱出は不可能、なんとか生存してはいいるが情報漏洩の心配はなさそうだ。しかし結界発動の直前までは情報を送信していた、という痕跡をツァトリー様が発見した。ある程度相手側に握られていると考えたほうが賢明だと考える」
確かにちょっと結界貼るの遅かったな、とは思っている。しかし実力主義なんて脳筋みたいな国が他国にしっかり諜報部隊を派遣しているだなんてな。リムニルの言った「強さと賢さを兼ね備えた者」というのはこれを指示したのだろう。中々厄介な敵になるかも知れないな。
「よし。よく理解は出来た。準備を諸々行って、明朝には出立する。メンバーはアリア、ツァトリー、モミジと俺。リムニルはもしかしたら呼ぶかも知れない。ヴィルは……すまないが、また裏方で頼む。ツァトリーの意向で呼ぶことになるかもだが」
「承知した。いつもツァトリー様を支える立場だったのだ、裏方などとうに慣れている」
「私も了解です。ヴィルさんと共に仕事をするのはとても楽しいですから。貴族たちは事あるごとに貶めようとしてくるので気が楽なんですよ」
リムニルはそう言って笑ってみせたが、どこか暗い印象を受けた。苦痛を味わったのだと、理解できてしまうほどに。
「それじゃ、各自準備を始めてくれ」
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